鯖好きとしてこのタイトルは読まないわけにはいかないと読んでみたが面白い!またもや内容確認しないで読み始めたがグイグイ読ませる。匂い立つような気持ち悪い気配と抜群の読み応えがギリギリのラインでせめぎ合うハードで骨太なノワール小説だ。
紀州雑賀崎の一本釣り漁師の仕事の面白さと、漁業の今後の世界の展望すら感じさせながら、人間たちのドラマが展開される。血の気の多い野性味あふれる絶滅危惧種の生き物(漁師)たちが、牙を抜かれて、餌に慣らされて滅びていくような話だった。
格好良かったんだけどな、野生の生き物。主人公のコンプレックスさえも格好良かった。ギラギラしていて生きているという実感があった。
歪な者同士がお互いの角を噛み合わせしっかりと組み合うようなチームであった。個々はアンバランスであったとしても、その連携は力強く確かなものだったのに。ある儲け話を持ちかけられたところから彼らの歯車は少しずつズレていく。
それにつけても怖いのは少しずつ少しずつ浸食するように付け入っていく者たちだ。付け入るものたちにしてみればこれほどたやすい相手もいなかっただろうと思うほど主人公たちのチームはある意味純粋だ。
終盤で物語がズルズルと悪い方向に転がっていく様を見ていて、映画のファーゴを思い出したのはアレがナニでソレされていたから連想したのか、気持ち悪い男と散々揶揄されたスティーブ・ブシェミと主人公をどこかで重ねてしまったか。
最後の場面を読んで、付け入る者の男への憎悪と絶対に生き残ることへの強い意志を感じる。そこまでかの者を追い込んだものを想像すると、それはまたそれで背筋が凍るような思いがするのである。
表現する語彙力が貧困で悔しいがこの作家すごいな。藻屑蟹も面白そうだ。また読みたい作品が増えた。