ひとりフラぶら散歩酒

世の中には酒場や居酒屋のマニアという人がいる。私は酒場も居酒屋も好きな方だが、その人たちとの違いはフットワークの軽さとこだわる方向性であるように思う。


 つい近場で済ませてしまう自分に対して、酒場マニアの人は、北海道から沖縄まで国内ならちょっと時間があればいけるでしょ、と思っている節がある。なんなら、台湾くらいまでは近所の酒場に飲みに行く感覚なのではという知人が何人かいる。

 本書での著者は、流石にそこまでのフットワークの軽さはないが、勝沼にワイン飲みに行った帰りに八王子の焼き鳥で締めたりするのは、おちゃのこさいさいなご様子。

本作は著者がそのとき見たいものや行きたいところをなんとなく決めて、散歩しながら、その地にある酒場で酒を飲んだら(オレが)楽しいというなんともゆるゆるな内容。

 飲む酒も食べ物も、特別なものは意外に出てこない。蕎麦、焼き鳥、板わさ、チーズフライ、焼きそば。ビール、ホッピー、熱燗、冷酒、ハイボール。

普通だねえ。だが、それがいい。
なぜ、酒好きの中年のおっさんが関東近郊をフラフラ飲み歩いてるだけなのに、楽しんで読めるのか。

 それは著者が非常に気ままにしたいことだけをしているからではないだろうか。

◯◯であらねばならない、はなく、あのもつ焼き屋に行こう♪と歩いてる手前に旨そうな寿司屋を見つけたらスイッとそこに入ったり。

ずっと旨そうだと思っていていながら、十何年も入らなかった駄菓子屋みたい店にふらりと入り、焼きそばツマミに瓶ビール飲んでみたり。

銀座のBARにも行ったりするし、値段の多寡も関係ないのだろう。あれだな、孤独のグルメで五郎さんが言う奴だな。「モノを食べるときには自由でなきゃダメなんだ」的なアレ。自由であるために、こだわりすらないというこだわり。

 著者の大竹聡は出版社、広告会社、編集プロダクションなどを経てフリーになり、雑誌「酒とつまみ」を創刊した。著作も『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』『酒呑まれ』、『もう一杯! 』、『下町酒場ぶらりぶらり』、『大竹聡の酔人伝』、『ぜんぜん酔ってません』、『愛と追憶のレモンサワー』。歴代のタイトルだけで、うーん、お見事。

 実はこの本、借り物なのだが、なんだかいつ読んでも待っていてくれるような安心感で読了に時間がかかってしまった。酔っぱらいの自由さは気まぐれな読書家にも優しい気がしてしまって。さて、ボチボチお返ししなきゃ。

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