コンラッド

コンラッド 
created by Rinker

この間読んだ「闇の奥」は本編よりも解説の方が面白いかったので、解説の作者のコンラッド論を読んでみた。本編を楽しめないのは自分の教養のなさが理由だと言うことがよくわかる本だった。

 

現代と離れた時代の本を読むためには、本来は時代背景を理解し、国ごとの情勢知り、当時の文化を知り、パロディされているものの元ネタを知っておいた方が楽しめる。

 

背景や元ネタがわかっているほうが面白い読み物というのは多分にある。その辺のことをタモリが、教養はあるに越したことはない。なぜなら遊ぶ材料になるからだとか言ったとかで、流石、敬愛するタモリさん。全くもって同意です。しかし森田一義氏ほど賢くも記憶力がよくもない自分は、詳しい人の話を聞いたり読んだりして満足する日々である。

 

帝国主義って搾取される側から見たら酷い話だよねという当たり前すぎる上に、今さらどうにも出来ないことを言われて理不尽な暴力や搾取の連続を見せられる(読まされる)と非常にやりきれない気持ちになる。

 

それよりも文学史の観点から間接的に帝国主義とはなんだったのか、どのような背景があって文化を生んだのかを教えてくれるようなこの本のアプローチが悲劇に酔っていない感じで建設的で好きである。

 

『帝国主義はその方法を博物学に、理論的根拠を進化論に負う。学術探査に「出かける」、標本を「集める」、それを分類・整理して「並べる」。それにより、一定の原理に基づく関係性、つまり優劣・上下の階層構造を確立する。そうした学術的な手続きが植民地の産物や住民に行使された、政治・経済・軍事への応用編こそが帝国主義なのであった。』

 

なるほど帝国主義ってのはフィールドワークであり、標本採集であり、分類学であると。いや〜迷惑だな〜。わざわざ他人の土地に出向いて行って、強奪して、区別(差別)していくのか。

 

この本をグローバルヒストリーから個別の事案に落とし込んでいくのではなく、個別の事案からグローバルヒストリーを読み解くタイプの読み物として読んだ。

 

ジョゼフ・コンラッドは東欧ポーランド出身。親戚のつてでフランス商船の船員となり変節を経て英国船の船員となり世界各国を航海した。この航海時代に見聞きしたものはコンラッドの作品に大きく影響を与える。

 

ひとりの語り手に第二の語り手を重ね、伝聞や第三者の証言・発言を重ねる手法を用いて、東欧の口伝え文化を文字化して継承し、イギリス文化をパロディしたコメディ作家がコンラッドだったというのが著者の要旨である。

 

英国小説の伝統を担う作家を捕まえてパロディが得意なコメディ作家だったとは、シロウト目には思い切った説だなと思われるわけである。しかしヨーロッパ帝国主義のプロパガンダとして使われた少年冒険小説を書いても本流から外れ、「闇の奥」で散々謎めいた雰囲気を盛り上げてラストでセオリーを外すちぐはぐさが滑稽さを生むと言うのは同意できる。

 

『受け入れがたい現実をそれでも受け入れようとするときに、後ろ向きでなく対峙する方法は、すべてを笑劇としてとらえてそのままに受け止めるというコンラッドの作家的態度だった。』

 

とする著者の考察は帝国主義の劣悪さへのコンラッドの対抗・共存の仕方であったと考えると、遠い時代の作家であっても不思議とどこか共感を覚える気がしてくるのである。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です