サカナとヤクザ

サカナとヤクザ』パンチの効いたタイトルである。これが『漁業と反社会的勢力の黒い霧』とかだったら、きっと売れていないだろうから、まずはタイトルで成功してると思うこの本。


漁師とは独特な仕事だな。(養殖でない限り)自分が育てたわけではない自然のものを採って売ることを主な生業とする。野生の草花や動物を採り、それを主で生計を立てている人はどれくらいいるのだろう。

しかも社会情勢によって海の持ち主は変わる。昨日まで漁に行けた場所も、今日からは外国。拿捕されて外国で裁判にかけられることもある。

しかし漁が上手くいって儲かってる様子を本書で読むと、想像の一桁二桁上をいく。ホラ話じゃないのかと疑いたくなるレベル。

ハイリスクハイリターンな職業なのだろうか。そしてそういうところにはヤクザ屋さんが現れると。

しかしこの本読んでいて思うのは、ヤクザの人たちの勤勉、新しいものをすぐにとり入れる柔軟性、海外情勢にも敏感な感性がすごいこと。

中国でナマコが高く売れると知ったら、産地に行って密漁し。潜水は非常に危険を伴うので、機材の点検は毎日して密漁し。警察の摘発を逃れるため、情報収集にも怠りなく密漁し。

えっと、まじめかな?そこらの気の抜けた会社員なんて相手にならない真剣な取り組みだ。してることは密漁だけど。

ヤクザの中で武闘派と呼ばれる組織の本当の暴力派は数人。実はヤクザ組織の基礎を支えるのは兼業ヤクザなのだそうだ。

漁師がヤクザとか。土建屋がヤクザとか。築地でバイトするヤクザとか。こんなのむしろ、仕事のことをよく勉強して、地道にコツコツ働くただの働き者じゃないか。

作品全体としては、ちょっと話があっちいったりこっちいったりして、とっちらかってる印象をもった。著者の立ち位置が第三者的でなく、どことなくヤクザに感情移入しているように読めるからではないだろうか。

しかし築地にバイトで潜入して密漁品を探ったり、密漁団にスカウトされたり、これぞルポという感じ。原爆マグロの話も知らなかった。

銚子のハードでバイオレンスな過去の姿が知れたり、講談師の神田松之丞さんの名前が引き合いに出てきたり(もちろんヤクザではない)。興味深いことがいろいろ。

海のものは誰のものなのか。漁師とはヤクザとはなんなのか。考えたことのないことを考えるきっかけになる本だ。

私の食べているサカナは正規の漁でとれたもの、密漁でとれたもの。一体どちらなのだろう。

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