フロスト始末 上・下

フロストシリーズを読んでいて、ずっと思っていたことがある。同じメロディーを繰り返す種類の、あの音楽みたいだなと。調べたらカノンね。輪唱のように複数の同じメロディーをずらして演奏する技法。

あっちこっちで、あんな事件こんな事件そんな事件が起こり、フロストはどの事件も必死に解決しようと奔走するのだけど、終盤まで一つも前に進んでないのでは?と思うほど、どの事件も犯人が捕まらずにストーリーは進行する。

好きなものは最後にとっておくタイプなので、フロストシリーズ最終巻で作者の遺作となった本作に、なかなか手を伸ばせなかった。これでお別れかと思うと名残惜しく。なんて感傷に浸る暇もないほど、本作の事件は今までに輪をかけて酷い。

フロストの守る街、デントンではバラバラ死体が発見されたり、強姦事件が起こったり、スーパーを脅迫する事件が起こったり、少女の失踪事件が起こったり。フロストに安寧を与える気持ちなど一切ないようだ。

すでにお約束の親父ギャグ、下ネタジョークを撒き散らしながら、フロストは突き進むが、今回は署内にも宿敵マレット署長とともにフロストを追い落そうとするスキナー主任警部の陰謀が。陰謀っていうか、自身の行動で自業自得の結果を招き、愛すべき(?!)デントンから放逐されそうになるフロスト。数々の事件の真相と、フロストの進退はいかに。

レギュラーメンバーの中では、ウェールズ産のの芋にいちゃん(タフィ)ことモーガン刑事が一周回って気に入った。本当に奇跡のように失敗ばかりするこの芋にいちゃん。フロストのモーガンを評する悪口呼び名のバリエーションの多さに笑いが出る。でも、フロストはモーガンのこと嫌いじゃないんだよな、きっと。余談だが、ウェールズの国章が私の好きなあのリーキってネギだとあって、モーガンには勿体無いなと思ったり。

今回のフロストは犯人と暗闇で格闘したり、亡くなった奥さんとの昔のことを思い出して感傷的になったり、今までと少し違う。癌を宣告され、闘病しながら本作を執筆したという作者のウイングフィールドの精神がそうさせたのか。

全部読んでしまったのはさみしいけれど、また最初から読めば良いんだ。本を開けば、また大好きなフロストの下品なジョークが聞ける。本の世界でフロストはずっと滑ったギャグを言いながら、被害者のために犯人を捕まえようと必死に奔走して生き続ける。同じことの繰り返しだって良いじゃない。大好きだよ。フロスト。

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