地下鉄道

コーラの命は、生まれた時からコーラのものではなかった。主人公のコーラは黒人で綿花農園の奴隷だ。

何度も値踏みされ、売り買いされるうちに、自分の根源的な存在理由を、奴隷という「モノ」として生きていくこととして、逃げることは考えなくなった祖母アジャリー。

しかしアジャリーは子供のために、住処の付近の二平米半程の土地を手に入れ、それを力強く守った。

その土地を引き継いだ母メイベルは、同じように奴隷だったが、ある時農園から逃走し、執拗で執念深い奴隷狩り達が、長期間に渡って探しても見つけられなかった。

コーラは母がいなくなった時まだ子供で、弱い立場の奴隷が送られるホブと呼ばれる小屋に住むことになる。

しかしコーラは、奴隷として生きながらも家族の土地のために戦う祖母の強さと、誰にも捕まらずに逃亡した母の、自由への渇望を受け継いでいた。

ある時、コーラは農園の奴隷に誘われ、ともに脱走をする。逃亡に使ったのは、逃亡奴隷を逃がすために、アメリカに張り巡らされた地下を走る鉄道だった。

世の中の地獄には、こんなに種類があるのかと思うほど、行く先々でコーラはいっときは救われたり、守られたりしているように見えながら、結局は新たな地獄に足を踏み入れるように、追われて迫害される。

暴力行為はもちろん無慈悲で、目を覆うような描写があるが、それよりもサウス・カロライナの博物館のシーンには、人の尊厳を踏みにじる無意識の暴力に、心の底から怒りを覚えた。

祖国が貧しかったり、政治・思想的に上手くいかなかったりした人々が、新天地だー!ってアメリカ大陸に来て、ネイティヴアメリカンを駆逐した。

手に入れた土地で広大な農園を維持するために、アフリカから大量の黒人を奴隷として連れてきた。

いつのまにか、連れてきた白人より連れてこられた黒人の数の方が多くなっちゃって、慌てた白人が黒人を迫害することでコントロールしようとした。

なんだか、とっても無駄なことをしてるように見えるが、そう単純な話ではないのでしょうね。

テーマは重たく、迫害のシーンはもちろん酷く残酷なのだが、誤解を恐れずに言えば、この小説は読み物として抜群に面白い。

人種差別がテーマと聞いて、もっと読むのに手こずるかと思ったが、全くそんなことはなかった。

コーラのいく先々での逃亡劇には、手に汗を握り、仲間の黒人達や迫害する白人達の矛盾を抱えた行動に、ドラマを感じる。

人種差別問題が取りざたされるトランプ政権下でベストセラーになり、ピュリッツァー賞を筆頭に数々の賞を受賞している本作。

まごうことなき傑作だ。全人類が読んだ方がいい。

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