先生、オサムシが研究室を掃除しています!

   鳥取環境大学の名物研究者が「自然豊かな大学を舞台に起こる動物と人間をめぐる事件の数々を、人間動物行動学の視点から描く」人気の「先生!」シリーズ。

   オヤジギャグ好きの著者が、ブログやホームページか何かに書くような口調で、ヤギは糞や唾液のついた餌を食べないことや、モモンガのダニのことや、モモジロコウモリの天敵のフクロウにたいする反応などを、野鳥を保護したりヤギを育てたりしながら素人にもわかりやすく語る。

   大学の「ヤギ部」で飼われているヤギたちが1匹だけを残して、地元の企業の要望で除草に行くことになる。

   いじわるやあえての実験でなく、身体の大きなヤギのクルミが車に乗るときにけがなどしないようにという配慮からだったのだが、自分以外のヤギ全員がいなくなってしまった後、クルミは歳を取り力も気力もなくしたようになってしまう。ヤギは仲間といることを強く望む動物なのだという。

   このエピソードをもとに著者は科学の永遠の命題である「脳という物質から、なぜ意識という非物質のものが生じるのか?」について語っている。

   意識だけが非物質だから不可解なのではなく、物質も時間もエネルギーもつきつめたら正確に説明できる人などいない。実感はあるのに実態がないのは意識も物質も時間もエネルギーも同じなのだから、意識だけが特別不可解なものではないのだと述べる。

   動物行動学者ならではの「行動も認知も意識も感情も、すべて自分の生存・繁殖に有利になるように作られている」という動物行動学の基本的な考え方にのっとり、物質がある状態になったときに意識は生じるというのだ。

   ヤギのクルミは仲間から引き離されてたことにより、人の孤独感や悲しみに似た意識を抱いた。同様にAIがある状態で活動した時に意識は生じるという意見は、ちょっと話が飛びすぎているような気がするが興味深くはある。

   内容は緩急の「緩」がだいぶ多く、もう少し専門的なこと言ってくれてもいいよと思うが、可愛らしいモモンガやヤマネの写真も見られたし、息抜きにちょうどいい読書である。

   余談だが、必要な情報を保存をするためにゼミの学生たちに記憶をさせておいて、いざというときに学生にそのことを聞くことを、著者がヒューマンクラウドと呼んでいる。以前同様のことを、(人間)外付けハードディスクと言った人がいた。同じような面白いこと言う人がいるもんだな。

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