全日本食えば食える図鑑

椎名誠による日本の奇食・珍食を追うシリーズ。よく外国の食文化をあーだこーだいうTV番組があるけれども、日本もどうして、よそ様のことを言えないほど多様な食の文化がある。

冒頭からなかなかのパワーワードが出てくる。『ヤシガニの腹部は睾丸の感触に似ている。』『なんてこったの肛門チンポコ生物』。どうもシモ方面に走りがちなのが、ふざけた小学生のようだが。

与那国島でとられる椰子蟹は、青みにいくらか紫色のまじった背。大きな鋏の後ろに四本の胸脚がある。捕まえた椰子蟹を腹の方から眺めると、蟹というよりも巨大な蜘蛛のように見える。でっかく膨らんだ腹の袋を指で押すと、ぶわぶわで無防備にだらしなく、おせばひっこむ”恥部”の感触だ。宮古島では『まくがん』、本島では『くーがん』と呼ばれ、睾丸のことを指すらしい。

通称:ワケノシンノス(若い衆のけつの穴の意)。輪毛尻巣と書くらしい。刺身、煮付、味噌汁の具として一般的に食べられていたという。2004年の連載記事なので、現在でも食べられているかは不明だけれど。

睾丸の腹を持つ、デカイ蜘蛛みたいなヤドカリの仲間が木の上にいて、それをとって食う。尻の穴の名前を持つイソギンチャクを普段の食卓で食す。なぜそんなものをと思ったが、これほど流通網が発達する以前は、季節・土地柄を問わず食材を選ぶということはできず、その土地にあるものを最大限に活用して食べていくことが必要とされたのだろう。

唐津くんち料理、アラの姿煮。阿寒湖で蝦夷鹿のフルコース(これはただのご馳走だな)。遠野ではゴカイの一種のエラコを生齧り。高知ではウツボのタタキや唐揚げ。奄美大島でハブと蘇鉄。椎名さん、好き嫌いせずにいろんなものに挑戦してます。

鯵ヶ沢の熊料理(これ食べたい!)。熊と言えば、以前に飲食店で熊の掌の値段を1手50000円と聞いて目が飛び出たが、本書でも言及されている。テノヒラが高級なのは熊の毛皮が完全な毛皮として売れなくなってしまうかららしい。熊の完全な毛皮ってどうするんだ?お金持ちが暖炉の前に置いたりするのか??

下北半島の港でフジツボ。名古屋で寿がきやのマヨネーズつき冷やしラーメン、台湾ラーメン、納豆コーヒーゼリーサンド。マウンテンの抹茶小倉すぱ。

スガレ追いと呼ばれ、長野で蜂の子をとるためにされる猟は蜂の子を食べる、という目的もさることながら、アカオをぶら下げて目標をさだめ、それを追って見事その巣をつきとめる、という一連のアプローチとその経過が面白い。そういえば、伊藤理佐が『ハチの子リサちゃん』の中で、お父さんが家の庭で蜂の巣を育てて、お母さんが刺されてしまう場面が出てきた。ハチの子入りご飯は、子どもでも味つきご飯が好きだった伊藤理佐の好物だったらしい。

鮒のなれ鮨は、今となっては高級品でおいそれと、庶民が食べられるものではないが、その匂いよりも茶漬けにした時の美味しさが非常に気になる料理であった。

読書傾向と同様に、食の好みも割と雑食な方だと思う。人からゲッ!っと言われるようなものも、とりあえず食べてみて味わいたい好奇心が勝つ。奇食・珍食というよりも、その土地の食べ物を、ならではの料理法で味わうことが非常に興味深いのだ。

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