太陽を創った少年

世の中のお父さんお母さん。もしあなたのお子さんに「核融合に興味があるんだ。車庫に核融合炉作っていい?」と言われたらどうします?

張り倒して止めてしまうかもしれない、子どもいないけど。こういう親の元では天才児は成長できない様子です。

「ギフテッド」と呼ばれる天才児たちをどのように育てていけばいいかについて書かれた本である。

アメリカ、アーカンソー州の裕福な家に生まれたテイラー・ウィルソンは幼い頃から宇宙や人間が作り出したものがどう空を飛ぶのかに興味を持ち、9歳でロケットを実作した。さらに彼は可愛がってくれた祖母の病などをきっかけに、11歳で核融合炉を自宅に作ろうする。

テイラー・ウィルソンが幼くして数々の偉業に取り組むことができたのは、当時のアメリカの教育施策、アーカンソー州の地域性、何より両親の教育方針によるところが大きい。

東西冷戦時代にソ連のスプートニク1号は世界で初めて地球周回軌道をめぐる人工衛星となる。対抗したアメリカは人工衛星の打ち上げを行うが失敗する。焦ったアメリカはアメリカの子どもたちの数学や科学のスキルを、ロシアの子どもたちのレベルまで引き上げるため、レベルの高い教育カリキュラムを導入する。

優秀な生徒はにわかに戦略資源と見なされるようになり、そうした生徒の才能を伸ばすことが国全体の優先事項になった。ギフテッドは戦略資源。それをどう伸ばしていくかは、その後の国の政治・経済・科学技術の発展に大きく影響を及ぼす。

まかり間違うと国家による天才児の強制教育というサスペンス小説のテーマにでもなりそうな話だが、この時代の天才児たちにとって、このことは幸運なことであったようだ。

ギフテッドたちは他の子どもたちに比べ、知能が進みすぎるあまり、学校の標準化された教育ではその能力を伸ばすことができない。彼らはやる気を削がれ、成長すると人並みあるいはそれ以下の能力になってしまうことがある。

そのためギフテッドたちには通常の教育より高度な学習機会を与え、それを支援するメンター(指導者、助言者)を必要とする。

ギフテッドたちの能力は特定の分野に大きく依存する。「僕、核融合に興味があって核融合炉作ってみたいと思ってるんだよね」と言われて、その危険性と対応方法について正確に子どもに教えられる大人はおいそれとは見つからないだろう。

幼いうちからその道の専門家と交流を持てる環境作り。現在ではインターネットのさらなる発展で一方向で情報収集をすることは、テイラーの時代よりさらに容易になっているだろうが、そこはやはりちゃんとした識者と相互交流を持つことの意義は大きい。

テイラーの育ったアーカンソー州の人々はとにかくおおらかだ。ロケット実作の際、テイラーは失敗もして隣の家の庭にロケットが突っ込んだりもしていたようだ。ある時はウィルソン家の方角から地響きのような大きな爆発音がした。驚いた隣人が外に出るとウィルソン家の上にキノコ型の雲が舞い上がっていたこともあったという。

そんなこと家の近所でされたら困るわー、、すぐ通報者などが出て、彼の研究にストップがかかりそうなものだが、この地域の人々はテイラー作成の花火を見ながら、庭でパーティを開く始末。

危険性を正確に理解していないのか、子どもの教育に熱心な地域なのか、果てはお父さんが有力者のようだから大きい声で悪口が言えなかったのかなど後ろ暗いことを考えてしまうが、結果として研究にストップがかからなかったことで彼はさらにその能力を伸ばすことができた。

何より違うのは両親の教育だろう。読んで受けた印象からすると、テイラーは自分の興味分野について話し続け、話している中で成長し、また新たな課題を見つけるタイプのようだ。

スピーチをすることで習熟する能力というものがあるそうだ。アウトプットの1種ということなのだろうか。彼は家でも学校でも人前で話すことを得意とし、常に明るく騒々しい存在だ。

しかし親として、放射性物質や核融合について、のべつ話しまくる子どもと向き合うのは非常な体力と努力を要するだろう。私なら「うるさい!ちょっと黙ってて!」とか言ってしまいそうだ。

テイラーの両親は息子の話を辛抱強く聞き、したいことを優先させ、止めることをしない。アメリカ宇宙ロケットセンターに連れていったり、より良い教育を受けられる学校に進学させたりする。

しかしモノがモノだけにその危険性を図るために、ツテをたどって人を頼り息子のしていることを正確に把握する努力をしたりもしている。

おうちが裕福だったからでしょ〜と庶民のひがみ目線を持ってしまうのは否定できないのだが、実際、裕福な家の全ての親が同じようにできるわけではないだろう。

数々の幸運に恵まれテイラーは成長した。ギフテッドたちをどう育てるのかは環境にかかっている。特定の分野で輝きを放つ幼い才能。経済発展がとか科学の進行がとかはさておき、良い環境に置かれると人間はどこまで伸びるのかについてはとても興味深い。

 

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