完全保存版 1冊まるごと、神田松之丞

 最近立て続けに、講談、浪曲、落語を観る機会に恵まれた。

 一人目は埼玉県上尾出身の女性講談師、神田あおいさん。演目は若かりし紀伊国屋文左衛門を描く「宝の入船」と左甚五郎を描いた「あやめ人形」。講談を見るのは今回で二回目だったのだけど、講談というのは戦う話と歴史物ばかりなのかと思っていた。

 「宝の入船」は商人の神様、紀伊国屋文左衛門が若かりし頃、大冒険をして船旅で和歌山からみかんを江戸に運び、成功の礎を築く話。「あやめ人形」は無名の彫り物師だった左甚五郎が、寺の柱に龍の彫り物をほどこすのをきっかけにおこる夫婦愛の話。

 「宝の入船」ではまだ何者でもなかった紀伊国屋文左衛門が、大借金をして卸問屋と交渉。船頭を説得して嵐の海へ乗り出していく様にワクワクし。「あやめ人形」では左甚五郎の二人の妻、綾と尾花のいじらしさ、いちずさに泣けた。講談にはこんな風に若者の冒険譚や人情を描くような話があるんだな。しかも、「宝の入船」では船頭のおかみさんやこどもたちがフフフと笑えて面白い。

 

 そして、これまた別の日は遊雀式スペシャル。大好きな三遊亭遊雀師匠の三人会。一緒に演るのは浪曲の玉川太福さんと、今大人気の講談師、神田松之丞さん。演目は玉川太福さんが「不破数右衛門の芝居見物」。神田松之丞さんが「中村仲蔵」。遊雀師匠が「淀五郎」。時期的なものなのか忠臣蔵のネタ3本でした。

 浪曲を生まれて初めて観た。なんかあの朗々と唄うやつだっけ?くらいのイメージで見たら面白い!!不破数右衛門が、おっちょこちょいな粗忽もので非常に笑える。知らない登場人物だったけど、ストーリーと唄が交互になっているので、難しくてわからないとうこともなかった(そういう演目を選んでくれたのかもしれないが)。

 家柄はないが芝居の工夫で名題(ナダイ)にまでのぼりつめた中村仲蔵。忠臣蔵で人気のない5段目の演目を極めるための鬼気迫る迫力に圧倒された。この人が血糊を初めて舞台で使ったって本当!?さすが、いまノリにのってる松之丞さん。50分くらいあったが長さを感じさせずのめりこんで観た。

 Penの別冊に今回のネタが載っていて、買って予習してよかったとウキウキ。しかし松之丞さんの持ちネタが「殺し」とか「悪事」とか「首なし」とかばっかりで、神田あおいさんとのあまりの違いに笑える。当たり前だが、演じる人の個性や性別によって向いてるネタ、得意なネタがあるんだそうだ。

 そして待ってましたの遊雀師匠、今回の「淀五郎」は、ねた下ろしで初めてだったそうだが、いままで観た師匠よりちょっと真面目、笑。仮名手本忠臣蔵の切腹する判官役に抜擢された淀五郎は張り切りすぎて空回り、座頭にどやされ思い余った淀五郎がとる行動は。

 遊雀師匠の演じるちょっと情けない登場人物好きだなあ。思い余ったからって、舞台で「師匠の座頭斬って、自分も切腹してやる!」じゃないっつーの笑。暇乞いしにいった中村仲蔵になんとか諭され教えてもらい、やっとうまくった舞台の最後で例のセリフ。

 どれもこれも面白かった。話すこと、唄うことだけでこんなにも長時間人を引き付ける。すごい技術だ。これから年末年始にかけて、この人たちは繁忙期なのだそうだ。今年の正月休みはぜひ寄席に行こう。

 

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