死んだら飛べる

ホラー小説を書く作家は怖がりだという説がある。少なくともスティーブン・キングについて言えばそれは自他共に認めるものだろう。キングの恐怖症のひとつである飛行機についてのホラー小説を集めたアンソロジーである。

 

どんな理屈か知らないが、よく考えてみればあんな鉄の塊が空を飛んでいるということはそれだけで奇跡的なことなのであり、怖がりの人々にさまざまな妄想を抱かせるにあまりあるものであるのだろう。

 

今となっては飛行機での旅自体が難しい時世になってしまっているが、世の中には時代を問わず飛行に憧れながら、同時にこれほどの恐怖を抱く作家がいることに驚かされる。

 

キングの前置によれば、ライト兄弟が1903年に有人動力飛行を成功させてからわずか10年後に書かれた小説がコナン・ドイルの「大空の恐怖」だそうである。これが面白かった。コナン・ドイルってのは嘘で本当はキングが書いたんじゃないの?と思うほど違和感なくそして怖かった。

 

リチャード・マシスンの「高度二万フィートの悪夢」では「トワイライト・ゾーン」や「グレムリン」を彷彿とさせられる(というかオマージュ?)。やはりこの設定は怖い。

 

「ルシファー」は自らを悪人と自覚して暴虐の限りを尽くした登場人物が最後にその特殊能力のために誰よりも酷い目に遭い。

 

ブラッドベリの「空飛ぶ機械」は哲学っぽくもある。

 

ベヴ・ヴィンセントの「機上のゾンビ」ではゾンビと言えばこの展開よねと興奮し。

 

ロアルト・ダールの「彼らは歳を取るまい」が意外と正統派なパイロットの物語を描くのに驚く。

 

ホラー小説を書く作家はどのジャンルの小説家よりも想像力と感受性が豊かなのではないか。自分が怖がりながらもホラー小説を読み続けているのは、彼らの想像力の作った異世界を体感したいからだと思うのだ。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です