焼肉ドラゴン

  ああ、苦手だ。この、いることもいらないことも何もかもが過剰な人々。すぐ喧嘩して取っ組み合いになったり、怒って怒鳴り散らしたり、興奮して泣いたり、喜んで歌ったり踊ったり。

  先日、鶴橋で焼肉を食べる機会があり、そういえばこの本、関西の焼肉屋の話だよねと思い出し読んでみた。やられた。濃いめの人たちの濃いめの人生に、ぐいぐい引きこまれてしまった。

  焼肉ドラゴンは関西のホルモン長屋にある。ホルモン長屋には貧しい在日韓国人やその二世、日本人たちがひしめき合って住んでいる。在日韓国人の父親と母親 。それぞれの連れ子の娘三人。二人の子供で本作の語り部の息子一人が住む場所だ。

  大阪万博のために増設された空港のそばにあるホルモン長屋は、万博の年、時期を同じくして閉山した九州の炭鉱から流れてきた多くの労働者たちで最高に人口を膨らませた。

  戦後をなんとか生き延びた父母も、日本育ちの娘や息子、客で昼間から酒を飲んで天下国家を語る人々もそれぞれに事情を抱えている。

  それぞれに差別や戦争の影響など同情できる部分と、それはアンタの自業自得だろうと思う部分もあるが、一貫して思うのはエネルギッシュであることだ。無気力とか諦めなどを知らないようなその生き方は、今の日本人の多くが持っていないものに感じられる。

  作中で描かれる人生におとずれる予期しないあっけない不幸について、衝撃を受けながらも案外こんなものかもしれないなと思う。それすら乗り越えて生きていく人々に、生き物としての強さを感じるのだ。

  こういった人間の情の濃さやしがらみが苦手で、苦手でたまらないのに、折にふれこういう本を読んでしまう。手に入らないトランペットをながめる子供のようだ。いや、ほしかないんですよ、ただ圧倒されるというのか。劇作家の著者が描く家族たちの話。良書だった。

 

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