短編画廊 絵から生まれた17の物語

暑い夏の朝に読んで眼が覚めるような感覚。鮮やかな切れ味、粋な読み口。短編集のいいところを集め、アンソロジーとはかくあるべきというような逸品だ。

エドワード・ホッパーと文章の親和性に驚く。編者のローレンス・ブロックは言う。ホッパーの絵には過去と未来がある。

たしかにホッパーの絵には光と影があり、物語を感じさせる。しかし、それにしても一枚の絵から作家たちが作る世界は、短くも登場人物たちの来し方行く末を描き、これほど濃淡が強い物語をあぶり出すものであることに驚きを禁じ得ない

そんなことまで妄想したの?!と凡庸な鑑賞者で読者である自分は驚くばかりだ。本当に作家なんてのはどうかしている人間たちがなるものだな。特にキング、「ROOM IN NEW YORK」で「音楽室」を書いたあなたの話だ。あの絵からどうしてそんな話が思い浮かぶんだ。どうかしてるよ。

しかし一度読んでしまったらそれらしく見えてしまうところが恐ろしいところだ。リアリティを連れてくる想像力こそが作家が作家である所以なのだ。日常の中に不穏を呼び込める作家は良いホラー作家である。不安や恐怖があらかじめあるわけではない。不穏が不安や恐怖を連れてくるのだ。

フィッツジェラルドの艶やかさと退廃、サリンジャーの狂気と不合理をいくつかの作品から感じる。フィッツジェラルドとホッパーはほぼ同時代だが、サリンジャーは少し時期があいているから時代背景のせいだけではないはずだ。ましてや書いてるのは今も現役の作家ばかり。

「ガーリー・ショウ」でミーガン・アボットが書いた、画家くずれのクズみたいな男に惚れちゃって離れられなかった彼女が思い切るためにしたことにシビれ。

「宵の蒼」で書いたロバート・オレン・バトラーは、ふと現れたピエロをきっかけに、主人公が自分と父親の恐ろしい共通点を見つけ出すさまに慄き。

マイクル・コナリーの「ナイト・ホークス」は、ボッシュのドジっ子加減においおいとツッコミを入れながら読んだためそれほどでもなかったが。

クレイグ・ファーガソンが「SOUTH TRURO CHURCH」で描く「アダムス牧師と鯨」は、個人的に大好物の部類であるジイさんたちが残り短い余生を良き友とともに楽しく過ごす話かと思いきや、まさかの結末に地味派手ってこういうことかしらと思いつつ。

「NEW YORK MOVIE」はホッパーの中でも好きな絵だが、ランズデールの書いた「映写技師ヒーロー」は作家の持ち味を失わず、絵の持つ都会の孤独感が表現されリーダビリティにも優れている。

キングもなんとかメルセデスとか、ドクターなんとかとか書いてないで短編書けばいいじゃん!歳とってきたら長編描くのもしんどいだろうし、ベテランの巧みがあるからこそ書ける切れ味のいい短編というのがあると思うんだよな。

好きな絵に好きな作家たちが物語をつけるということがこれほどワクワクするものかと。早く次が読みたかったが読み終えたくなかった。ローレンス・ブロックありがとう。

値段を見てちょっと高いかなと思っていたが、大好きなホッパーが見られて好きな作家たちの文章が載っているのだ。高くないな、買うかな。今年のベストテン入り決定。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です