罪の声

面白くなくはないがいまひとつ乗り切れなかったのはなぜなのか。好意的に思える登場人物が、最後まですっきりした形で救われたように思えないところ。逆に好意的に思えない登場人物が、自分のやりたいことを好きなようにやって勝ち逃げしているように見えるところであるように思う。

 

派手な生き方と地味な生き方というのがある。派手に生きて人にたくさん影響を及ぼして、なんなら迷惑もかけてやりたいことをやる人。対して、あまり多くの人に影響は及ぼさず地道にコツコツと生きて、それほど人に迷惑をかけない地味な生き方の人。

 

願わくば地味に生きる人でも報われるようであってほしい。酷い目に遭ってもフィクションの中でくらい最後は救われてほしいと思ってしまう。

 

父親のテーラーを継いだ主人公は、あるとき家の物置からテープを見つける。それは自分の子どもの頃の声が吹き込まれた、31年前に発生し未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった。

 

なぜ自分の子供の頃の声が吹き込まれているのか。身内の誰かが「ギン萬事件」に関わっているのか、平穏だった彼の日常はガラリと姿を変えていく。

 

作中の「ギン萬事件」は実際のグリコ・森永事件を忠実にモデルにしたものである。

 

もう1人の登場人物である文化部の新聞記者は特集で「ギン萬事件」を追う特集に駆り出され、慣れない取材をしながら徐々に真相に迫っていく。

 

今の時代にグリコ・森永事件を取り上げるのには懐古主義以外の目的を見いだす必要がある。かくいう自分はキツネ目の男以外のことをあまりよく知らなくてこの本を読んでウィキペディアを読んでみた世代である。

 

ネットや一部週刊誌の方がよほど早く強烈な情報を流している現在では、失礼ながら新聞社が特ダネ合戦をしていたということ自体が以前はそうだったんですねという感じである。

 

「クライマーズ・ハイ」を読んだ時もあの独特の熱気はなんなのだろうと思ったが、今とは違う新聞社のどこよりも早く特ダネをつかみ記事にするというマスコミの意識があればこその内容なのだろう。

 

その新聞記者が畑違いの文化部の記者を要して、過去何十年も警察が解決できなかった事件の真相にたどり着くことのリアリティがちょっとうすい。

 

懐古主義以外の目的に、子どもが巻き込まれた事件であるからその真相を明らかにしなければならないというけど、それで最後にアレをさせるの!?それのどこが子供のためなのかよくわからない。

 

犯人たちもなぁ、あなたたたちは良かったですね、不遇な時期があったとしても鬱憤を晴らす機会をむりやり作れてなんとなく逃げおおせてという感想である。全共闘世代との意識格差を感じる。勝手に奮い立って人に迷惑かけないでくれよと思ってしまう。

 

世代格差に翻弄された失われた20年の就職氷河期世代によるただの妬み嫉みのようになってしまった。株価操作説あたりの話は面白かったのだが。そういえばインサイダー取引って警察はどうやって操作するんだろうなとか関係ないところに気がいってしまう読書であった。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です