某駅前で待つ黒塗りの運転手付きの車。一体誰を乗せるんだろうとずっと疑問に思っていた。なるほど吉原のお出迎えだったのか。
今ではどのサービス業界でも到底そこまでのものは無いだろうなと思うような客の立場に立ったサービスを行う以前の吉原。「昔は人情がありましたよね」と語る吉原の人々。
半面、本人だけでなく家族やパートナーの作った何千万・何億もの借金を、ハタチそこそこの女性が背負うのを普通としていた世界。
人間らしい温かさと残酷さが、矛盾なく共生している。不思議な世界だ。
宮部みゆきの「火車」を思い出した。悪質な闇金融業者を取り締まるため、いわゆるサラ金規制法(貸金業法)が交付施行されたのが1983年。
現在では総量規制により年収の3分の1までの借金しかできないし、上限金利は20%までと法律上定められている。
しかし本文中で、10年くらい前までは良かったと語る関係者が多いことを見ると、多重債務問題は一足飛びに解決したわけでは無いのだろうし、この世界で働くということは、銭金の事だけでも無いのだろう。
致し方なく入った世界でも、全盛期の吉原で働いていた人々は吉原で働くプライドを持ち、厳しい躾や教育を受けながら努力と工夫をして仕事をしていたようだ。
今ではおよそ家庭内でも学校でも言われることの少ないだろう畳の縁を踏まないとか、ナンバーワンの女性が食事するまで他の女性は食事をとってはいけないとか、いわゆるしつけとしての厳しいルールがいくつもあったそうだ。
だがいくら高額の給料を受け取ってもやはり非常に消耗する職種であるのは間違いなく、一定の年齢で吉原を辞め第二の人生を生きる為の風俗技能以外も教える風俗講習師が本書には登場する。
良いとか悪いとかではなく、そういう世界が歴史をもって現在も存在するということに感嘆を覚える。ただその世界も風営法の強化、東京オリンピックの開催決定などで衰退の道を辿っているようだ。
それでも本文中で吉原の組合の集まりで警察が、オリンピックが始まると外国人が増えるのでお店に最低1人くらいは英語が話せるスタッフを置くべきとか、わかりやすいメニュー表を作っておくようにとか対策をしなさいと言ったとかいう話を読むと思わず笑ってしまう。
清濁併せ呑んで続くこの世界はこれから消えていってしまうのか、それとも新たな道を見つけるのか。非常に興味深い内容であった。
はじめまして。
読書メーターからブログを見つけ、拝見しました。
時代劇などで吉原はよく登場しますが、現代の吉原についてはそういえば考えたこともありませんでした。ぜひ読んでみたいです。
はじめまして。そしてこのブログ初コメント頂き、ありがとうございます!
歴史を持ちながら、今も続く吉原はとても興味深かったです。 ルポタージュとして出色の出来だと思いお勧めします。