ブレイブ

平山夢明の言うことを聞いたばっかりに、おぞましさと美しさで、トラウマになるような読書をしてしまった。

ネイティブアメリカンの青年、ラファエルはある仕事をすることにした。それはスナッフムーヴィーと呼ばれる、人が惨殺される映画に出演すること。

ラファエルと家族達が住むモーガンタウンは、酷く貧しく、電気も水道も通っていない。その日食べるものにも事欠き、お父さんもお母さんもお兄さんも子ども達も親戚も、ラファエル自身もみんなアル中だ。モーガンタウンはゴミ投棄場のそばにあり、そこここにある水たまりは油や化学物質を含んでいて、常に身体は汚染にさらされている。そのせいかアルコールのせいか、家族達はみな癌と思われる腫瘍を患い、苦しんで死んでいくが、医者にかかる金はない。

ラファエルは自分も遠くない未来、母親を苦しめたのと同じ病を患い、長く苦しんで死ぬか、アルコール中毒がもっと酷くなり野垂れ死ぬか、ゴミ投棄場の警備員に撃ち殺されて死ぬと知っている。

破格のギャラに惹かれて、スナッフムーヴィーへの出演を決めるラファエル。依頼主の『おじき』によって、ねちっこく語られるスナッフムーヴィーの内容。実際にその映像を見るシーンがあるわけではない。が、詳細に語られるその内容は、恐ろしくおぞましく生理的な嫌悪感を強く抱かせ、身の内に毒のように残る。このシーンが終わってから、しばらく先を読み進められなかった。だが、本当に恐ろしさを感じるのは、この先だった。

ラファエルは知っている。自分が売り物に出来るのは若い身体だけだ。それすらも後、数年経てば、酒でボロボロにになり、売り物にならなくなるだろうことを。そして家族を愛している。このままモーガンタウンに住んでいたら、家族も自分も、環境に長い時間をかけて殺されていく。逃れるためには街を出ること。そのためには金が必要なのだ。

序盤のおぞましさと、中盤以降のラファエルの家族を思う純粋な心の美しさが、互いに引き立てあい、より残酷さを際立たせる。長い時間をかけて環境にゆっくり殺され、何ももたらさずに人生を終えるか。短い時間で残酷に殺され、大切な人に金を遺すか。

ラファエルは磔になったキリストを見ながら言う『イエス・キリスト……おれはあんたよりももっともっと血まみれになって死んでいくんだ。』家族を思いながら、仕事へ出発する後ろ姿はあまりに尊く、直視することすら憚られる。

ジョニー・デップは本作を初めての監督作品に選び、脚本・主演をこなした。依頼主の『おじき』はマーロンブランドが演じた。著者のグレゴリー・マクドナルドは 『殺人方程式』で1974年度のMWA新人賞を受賞。その後、フレッチ・シリーズ、フリンシリーズなどを発表している。

こんなに恐ろしくて美しい本を教えてくれてどうしてくれるんだ、平山夢明。心がえぐれて傷跡が残った。多分、ずっと忘れられない。

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