上野アンダーグラウンド

上野は、わりと土地勘がある街だ。作中に出てくる九龍城みたいな風俗がいっぱい入ってるビルを知ってるし、駅のすぐそばにあった大人向け雑貨屋が、しばらく前になくなったのも知っている。

よく考えると、ターミナル駅のすぐそばに、これほど猥雑な建物がたくさんあるというのは、よくあることなのだろうか?

少し前に読んだ、吉村昭の小説の舞台であった上野のお山は、幕末には薩長軍と彰義隊の戦場となり、敗れた彰義隊の人々の屍が累々としていたという。

徳川幕府は鬼門封じのために、上野に寛永寺を建て、不忍池を琵琶湖に見立て、琵琶湖の竹生島にならって、不忍池に弁天島を築いたのだそうだ。

陽と陰が、隣り合わせにぴったり張り付いたような街。決して若いエネルギーに溢れているわけではなく、ただずっと様々なものを飲み込んでそこにある。

ごっちゃごちゃですね。本の内容もごっちゃごちゃ。風俗。男色。部落。宝石街にアメ横。完熟街娼じいさんばあさん。コリアンタウンに、はては永山則夫ときたもんだ。カオスってこういうことですね。

著者と記者たちの、体当たりでの風俗やハッテン場サウナへの潜入に、朝の通勤電車で胸焼けするような迫力を味わい。

風俗のおねいさんへの、赤裸々なインタビューページを読むときは、これ後ろの人に覗かれたら、なに読んでるんだと思われるんだろうなと、東スポのいやらしいページ読んでるおじさんのような気持ちになったり。

西郷隆盛の銅像の話が面白かったな。明治維新で、江戸城を無血開城させた西郷隆盛は、鹿児島で反乱軍のリーダーに祭り上げられ、明治政府と戦い、逆賊として自刃してしまう。

けれども、廃藩置県、学生制定、国立銀行の設置、キリスト教弾圧の廃止、陸海軍設置や徴兵制など、近代日本の基礎を築いたそれまでの業績を称え、明治天皇は西郷隆盛に正三位を贈り、その銅像が建立されることになった。

しかし居並ぶ元勲たちの機嫌を損ねないために、その装いは政治に影響力を及ぼす元勲ではなく、一庶民であることを表現するため浴衣姿になったという。

上野公園の西郷隆盛像のすぐ後ろには、戊辰戦争で薩長軍と激突した彰義隊の墓がある。恨みをもって死んだ者を鎮魂し、なおかつ守護してもらう。敵味方を溶解した、白黒つけない日本的な懐柔文化の1つであろうと語られる。

上野を歩いていると、外国人観光客の家族や高齢の男性同士のカップルと思われる人々を見かける。朝は通勤客に混じって、駅前で吉原の迎えの車も見かける。

清も濁も、白も黒も、陰も陽も併せ呑んで、今日も上野はゆったり流れる河のように人々を受け入れているのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です