世界で最大級の権力を持ち、おそらくストレスも最大級に抱えた権力者たちと、その主治医たちの究極の共依存について。
人間が耐えられるストレス・プレッシャーの上限はどれくらいなのだろう。
本書に出てくるのはヒトラー、チャーチル、ペタン、フランコ、ムッソリーニ、ケネディ、スターリン、毛沢東。
彼ら20世紀を代表する権力者たちと、いわゆる普通の人々の間には、どれ程のストレスの差があるのか。感受性やタフさなど個体としての違いがあるにせよ、人はそんなに多大な圧力に耐えられるものなのか。
強大な権力者とはいえ、やはり過大なストレスは応えるらしく、皆さんそれぞれになかなか重篤な病を患ってらっしゃる。
しかし暗殺とかに合うのでない限り、皆さん、わりと長生きなんだよな。もしくはフランコみたいに死なせてもらえないパターンか。
普通は耐えられないと思うんだけど。普通じゃないから権力を握るのか、権力を握ってるうちに普通じゃなくなるのかどっちかな。
主治医たちはそれぞれ製薬業界のボス、有名な作家、影響力のある人間、天才的科学者、偉大な教授、政治顧問になることなどを夢見て権力者たちの主治医になる。
ヒトラーの主治医のモレルの虚栄心の強さと病的な猜疑心。フランコの主治医のビセンテの嫉妬深い女性のそれのような執着心の強さ。いやいや、皆さん癖がスゴイ。
権力者たちとその主治医の関係は、親子のようであり、嫉妬深いカップルのようであり、ヤク中と売人のようでもある。
権力者の健康を管理する主治医と、思い通りにならなければすぐに主治医を(文字通りの意味で)亡き者に出来る権力者。互いが互いの生殺与奪をにぎり合う関係の緊張感は、通常の人間関係とは全く意味合いが違う。
自らの地位向上のために時の権力者の主治医になり、その機嫌や気分に振り回される医者たち。健康であることに脅迫的な信念を持ち、医者に病気を宣告されたくはないが、頼らないと日常生活を維持することこともままならない権力者たち。すさまじい相互依存の関係だ。
どの主治医たちも、結局は権力者の気分と時代の波に飲みこまれて、なかなか思い通りに成功している人は多くないようだ。
治療が成功するかどうかという医療従事者の側面と、時の権力者の健康状態を本人と周囲に公表するかという政治的な判断を常に同時に求められることは、大きなプレッシャーなのだろう。
それぞれの権力者たちの政治の歴史の陰で、こんな治療(だったり、ただの薬物投与)だったりが行われていたのか。
あの人はパラノイアで、あの人はヤク中で、あの人は恐らくS◯X依存症なんじゃあ、なんて話が出てきて興味深い。
でも、誰がどの病気だったかなんて書いてると、「おや、こんな時間に誰か来たようだ」な目にあっちゃうかもそれないから詳細は書くのやめよ 笑。
著者の政治的立ち位置がちょいちょい感じられるような気もするけど、まあそこはそれ、ノンフィクションとされてるとはいえ人の書くものだから。
全部本当の話なのかな。参考文献は大量に示されているが、いっそ都市伝説と言われた方が納得できるようなパンチのあるエピソードが続々。病の側面から見た権力。なかなか興味深く読了。