会計の世界史

数字が苦手なのだ。苦手というか、いっそセンスがない。

それは繰り上がりの足し算でつまずいたことから始まったのか、はたまた、掛け算九九で七の段が覚えられなかったことがきっかけだったのか。

数字のセンスがなくても生きていかなければならないので、まあなんとかやってはいる。

しかし、この苦手意識を少しでも減らすために、会計の世界の歴史をぼんや〜り知ることができたら違うんじゃない?!と何とかして都合よく知識を得ようと選んだのがこの本である。

結果、正解だった。読みやすいし、純粋に面白かったから。

レオナルド・ダ・ヴィンチの父ちゃんは人でなしで、身ごもったダヴィンチの母ちゃんを捨てて別の女性と結婚した。

しかしそのことで、公証人だった父親の仕事を継がなくてよくなったダ・ヴィンチは、当時は貴重だった紙を使って、たくさんのメモやスケッチをすることができたため、その能力を開花させることができた。

ダ・ヴィンチが師匠の仕事の手伝いで描いた「トビアスと天使」は旧約聖書外伝「トビト書」のストーリーをもとにした、「商売人の孝行息子、無事帰る」のストーリーを描いたものだ。

この絵は当時の、旅から旅を歩く商人たちにとって「道中の安全」はどれだけ祈っても足りない心配事であったことを示している。

当時のイタリア商人の得意技は東方貿易で、香辛料・ワイン・茶・陶器・織物といった商品を中国やインドから陸路と海路を通じてイタリアへ運び、そこからさらにヨーロッパ各地へ運ぶことだった。

しかしその旅には、海賊や悪天候など非常に多くの危険がともなったため、「キャッシュレス」サービスを提供するバンコ(Banco=銀行)が発生した。

バンコは「為替手形」取引を提供し、商人たちの現金を扱うリスクをなくすとともに、各都市国家によって異なっていた通貨の両替サービスをした。

こうしてビジネスの規模を拡大させられたイタリアの商人と、各地にネットワークを広げたバンコは、取引の記録を取る必要に迫られ「帳簿」をつけるために「簿記」が発生した。

中世のキリスト教は商人に「利息」をとることを禁じていたため、「卑しいユダヤ人の仕事」として押し付けられていた。この背景をもとに生まれる物語が、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」である。

しかし、バンコは結局「これ利息じゃないから!それがあれば得られたはずの儲けの補償してるだけだから!」と詭弁を弄して、商人たちに融資をする。

この本だとバランスシート(貸借対照表)が理解しやすいね〜(え?普通わかる?)。

バンコから「借り入れ」た「負債」と、自分の元手である「資本」の合計よりも、手に入れた資産が大きければ商売は成功、小さければ失敗てことなのね。

ダ・ヴィンチが「最後の晩餐」を書くにあたって、遠近法やスフマート(ぼかし)などの描写技術について研究していた時、そのプロセスで幾何学、三角法、代数学などの数学概論や、通貨、重量、長さにかかわる実用的な換算表が記された「数学の本」と出会う。

これがルカ・パチョーリが記した「算術、幾何、比及び比例文書(スンマ)」であり、この中に簿記について説明されていたページがその後のビジネスにとって非常に大きなインパクトをもった。

その後、オランダで株式会社のルーツが築かれ、イギリスで、蒸気機関が発明されたことにより鉄道会社が財務会計と管理会計の歴史を変えた。

アメリカでは鉄道建設にともない、株式会社の経営分析ブームが起こり、監査をする会計士のニーズが高まり、この中で活躍(暗躍?)したのがアイリッシュ移民であったジョセフ・パトリック・ケネデイ。

彼はアメリカでもっとも有名な大統領の1人、ジョン・フィッツジェラルド・ケネデイ(JFK)の父親である。

この父ちゃんがまあ興味深い!会計知識と様々な会社の「裏情報」を利用し、情報操作をしてインサイダー取引で大儲けをする(当時はインサイダー取引は法律で禁止されていなかった)。

「プール(共同購入)」と呼ばれる会員に株を購入させ、株価を操作する方法や、禁酒法下で、海外の蒸留所から買った酒を密売ルートに流したり。

このルールギリギリで派手に儲けた大悪党のジョー父ちゃんを、アメリカ証券取引委員会(インサイダー取引や株価操作の禁止など証券取引ルールの指導・監査役を行うべく新設された)の初代長官に任命したフランクリン・ルーズベルトが言ったとされた言葉がふるっている。

「泥棒を捕まえるには、泥棒が一番なんだ」

事実、ジョー父ちゃんはそこで非常に良い仕事をし、株価操作や共同購入は減り、マーケットの信頼性は向上し、投資家保護が根を下ろした株式市場はより活発になり、経済は豊かになった。

本当に面白い。この本を面白くしているのは、会計の歴史を振り返りながら、その時々の文化を織り交ぜることで、理解をしやすくしていることだろう。

ルイ・アームストロングやエルビス・プレスリー、ビートルズにマイケル・ジャクソンなども登場し、音楽と会計のクロスオーバーを説明し、価値とは何かを問いかけたり。

それぞれの章でイラストが挟まれ、フォントを変えるなどして、ちょっと難しくなってきたな〜と思っても、気分を変えて読み進めることができる。

時々出会う、中学生くらいの時に読んでおきたかった本だ。難しいと思わせず読み進められる内容でもって、その後のその世界への抵抗をなくし、人々にその門戸を開かせ、関心を持たせる。

とりあえず私はこの本で、バランスシートの右より左が小さくなったら失敗、ということだけは覚えました笑。

だから常識だからって、ずっと理解できなかった人間が世の中にはいるんですから!小さくても一歩は一歩ということで。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です