馳星周といえばセックスアンドバイオレンスの人というイメージである。性的、社会的な乱暴者が無闇に出てくる小説なんだろうなと思っている。きっかけに恵まれず、今まで読んだことはなかった。
そんな人が、犬が出てくる小説で直木賞を取ったらしいという話を聞いて、人というのは歳を取ると丸くなるものなのかと興味深く思っていた。セックスアンドバイオレンスの方を1冊も読まずにこれを読むことになったのも何かのご縁なのだろう。
いつも直木賞と芥川賞のどっちがどうだったか忘れてしまうのでこの機会に記録しておこう。芥川賞は無名・新人の短編純文学、直木賞は新人・中堅作家の短編および中篇の大衆小説が対象であると。
大衆小説が対象の直木賞の選評会とはいえ、犬はちょっとずるいんじゃないかというような話があったと何かで読んだような気がする。確かに犬は飛び道具である。今でこそ猫のブームが世の中を席巻しているが、やはり根強い犬派はどの世界にも確実にいる。
先般も世界で新型コロナウイルスが流行し、人間が閉じこもることを余儀なくされているなか、米国の著名な政治学者イアン・ブレマー氏がインタビューで今後、人間はどう生き抜くべきかと問われ、犬を飼えばいいと言ったと聞いて手を叩いて笑いながらもっともだと納得したものである。
さてこの本の話に戻ると、犬という飛び道具を使ったとはいえ、やはり著者はバイオレンスの世界の作家なのは間違えなく、人はパタパタと死ぬのである。しかしそこに犬がいることで救いがあるというか、犬が見守る者として存在することで人間の生に厳かな光が当たるというか、結論を言うとやはり犬は最高なのである。
著者は実際に大型の犬を複数飼っているらしく、読んでいると「犬って本当にいいものだよな」という内なる声がモロに聞こえてきて、どう考えても同意せざるをえないバイオレンス作家の犬小説なのであった。