天才のインフレなのである。あ、いい意味です。天才ってのは小説の場合ひとつの作品に1人出てくれば上々なもので、なんなら必ずしも出てこなくても物語は成立する(漫画の場合はまた別である)。それ以上出てくるとそれこそ飽和状態になって誰が何の天才なのかよくわからなくなる。
しかしながらこの本においては、あの人は野生の天才、この人は幼い頃から天才、その人はハイブリットな天才、この人は遅咲きの天才と、天才の見本市というか天才の万国博覧会というか。それぞれがキャラ立ちしていてかぶることのない天才のバリエーションを見せてくれる。
わたくしフィクション、ノンフィクション問わず脈絡のない読書傾向であるのは自覚しておりますが、一つあるとすれば説得力のある天才が出てくるものに弱い。
大好物です。いっそ漫画的であるような小説である。しかし漫画は絵という要素を備えているから漫画なのであって、それを小説として文だけでしようというのは。しかも主題は音楽!文章で書くのは非常に難しいと思うのだがそこは恩田陸氏の巧みな筆致で軽々と飄々と乗り越えていく。
読みやすいしなあ。読みやすいということは決して悪いことではないですよ。カジュアルかしらとかミーハーなのではと訝しんでいた自分の背中を蹴っ飛ばしてやりたい。恩田陸氏の軽妙で絶妙なストーリーテラーぶりに驚くばかりである。
図書館でいつ予約したのか忘れるほど前に予約したのがやっと到着してページをめくってみたらまさかの二段組。うっそ〜ん薄めの文庫本一冊くらいだと勝手に思い込んでいたから、まさかの長編に驚いた。しかし読み進めてわかったがこれは必要な長さだ。そして読みやすさでもって飽きさせず長さが全く気にならない。
そして今の世の中でこの本を読む楽しさはインターネットですぐに作中に出てきた音楽を聴けるところ。なんて便利な世の中だ。ナニソレどういう感じ?というのを、あーこの曲ね!とすぐに体感できる。楽しさ2倍!2度美味しい。
イスラメイ
フライミートゥーザムーン
ハウハイザムーン
ドビュッシー練習曲第一曲
バルトーク ミクロコスモス
好きな曲の名前も知ることができた。
軽やかでありながら巧みな若き天才たちの共演劇は、読み終わった後も非常に爽やかで華やかだ。読んで楽しむ音楽であった。