おりしも新入社員たちの入社時期である。通勤電車は乗り慣れない彼らにより、そこは一回降りなきゃダメなんだよとか、もっとこう身体を斜めにさあ、とかいった無言の混乱状態に陥る。
これがGWが明ける頃になると、なんとなく落ち着いてくるのだから、毎年のこととはいえ、不思議なものである。
人は仕事とどのように向き合うべきなのか。主人公は36歳の女性。前職を燃え尽き症候群で退職し、就職相談員に紹介されたいくつかの職場で働くことにする。
その仕事は、密輸に関連していると思われる人間の家を見張る仕事。バスの車内で流れるアナウンス広告を作る仕事。おかきの袋裏に印刷される豆知識を考える仕事。路地を訪ねてポスターを貼る仕事。大きな公園で簡単な調査と事務をする仕事。実にさまざまである。
まず思うのは、羨ましい。世の中には確かに本書に出てくるような、普段想像したことのないさまざまな仕事があるだろう。そんな面白そうなこと、是非仕事としてやってみたい。特におかきの袋裏とバスの広告アナウンス作り。
1つの仕事に燃え尽きてしまった後、それでも別の仕事をすることができるのは、生きていく上で救いになる。あれがダメだったからといって、それもこれも全部がダメなわけではない。
仕事と愛憎関係になるのをおすすめしないと、相談員に言われる主人公は、最初こそコラーゲンの抽出を見守るような仕事はないですかなどと、冗談半分本気半分な仕事探しをする。
しかし相談員はあなたにピッタリの仕事がありますと、上記のような毛色の違ういくつもの仕事を紹介してくれるのである。
私の知らない私に向いている仕事を見つけてくれる相談員、私もほしい。
主人公はこれらの仕事に就いて、強烈に癒されたり、新たな自分を発見したりするわけではない。疲れて臆病になった心はそれほど変わらないし、すぐに仕事に思い入れ、愛憎関係に陥りがちな資質も変わらない。
しかし、それぞれの職場で出会う人々は彼女に少し視野を広くさせたり、愛着を沸かせたりして、また仕事と向き合う活力になっていく。
ポイントは違う世界に触れること。本業でなくても、なんなら仕事でなくてもよい。それは本来したいことにも良い影響を及ぼすことがある。少なくとも行き詰まったときの息抜きにはなる。
新入社員の人々にも、慣れない職場で頑張りつつも、是非趣味や好奇心を諦めることなく追求してほしいと思うのである。それはきっと巡り巡って自分を救ってくれる時があるだろうから。