イノセント・デイス

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不幸のインフレなのである
(以降はネタバレを含みます)。

主人公は生まれつき持病があり身体が弱く。早くして母親を亡くし。動揺した義父に(一度)暴力を振るわれ。環境の悪い地区に住む祖母に引き取られ。悪くなってしまった友人をかばい少年院に入り。ギャンブル好きで金遣いの荒い男と付き合い。ついでに女癖も悪かったのでその男に捨てられる。

怒涛の勢いである。ある意味でリアルかもしれないと思うのは、それぞれの状況が実は悪だけでないところ。

同じ病気を患っていた母は娘を愛していたし、義父も一度理不尽な暴力を振るったとはいえ、妻の死で動揺し、やめていた酒に溺れてしまったことがきっかけだった。

祖母は孫娘を大切せず利用したが、孫娘が罪を犯したとされ死刑を宣告された時、それまでの行動を悔いるくらいの良心は持っていた。

友人は若さゆえの愚かさで犯した罪を押しつけるが、主人公のことを大切に思っていないわけではなかった。

典型的なダメな男である彼氏は、確かにダメではあったが、主人公の良さを見つけてくれる善良な友人がいる程度には人間的に魅力的だった。

こうなってくると、絶対的な悪でない方が人を追い込むのだろうかと思ったりもするのだ。いいところがチラホラ見えるから希望が捨てられない。

数々の不幸の中で主人公を最終的な決断へ導いてしまったのはなんだろうと考えると、持病と環境でないかと思う。

身体の不具合は続くと精神を蝕む。ダメになる環境から抜け出るために必要な気力と体力を削いでしまう。

しかし身体の不具合は避けられないこともある。それを前提として前向きに生きるためには本人の意思と環境が重要である。

巻き込まれたり共依存したりしてダメになりやすい環境に、自分を置かないことが重要なのだ。

作中で主人公以外の何人かも、悪い環境に自分を置いたばかりに逃げきれなくなり、その罪を主人公に押し付けて逃げる。しかし彼らは本質的には逃げきれていない。

文芸書をそのような視点で読むこと自体がナンセンスなのだろうが、たまたま自分が体調を崩していた時期であり、Twitterでハマっていたのが生まれながらの心臓疾患を持った子どもと発達障害を持つ子どもを懸命に育てつつ、ユーモアあふれる言語感覚に優れたお母さんだったりしたので、やはりなんとかして打開してほしいと思ってしまうのだ。

死を前にして主人公は初めて前向きになる。後ろ向きな目的のための前向きな姿勢。これほどの矛盾を抱えられる人間は、本来大きなエネルギーを持っているはずだ。

感傷を解さない読者の私は、「で、どうすればそんなことにならなかったわけ?」と思わずにいられないのである。

持病があろうと男運が悪かろうと、なんとかして主人公に前を向いて生きてもらいたかった。あのような形ではなく。

 

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