嘘の木

イギリスの旨いウイスキー作ってそうな地方の雰囲気。雨降りがちで、森と崖があって、風が強くて、潮の香りがして、ねちっこい人間関係。最後のは明らかに偏見だが。気候と環境で人間性をうまいこと表現しようとしているなら成功だ。


 中盤まで登場人物の誰にも好感が持てないという、オイオイ大丈夫か?という状況が続く。

 十九世紀後半、ダーウィンの進化論に揺れるイギリスで、父親である牧師で博物学者の化石捏造疑惑から逃れるように一家はヴェイン島へ移住する。

父親、母親、主人公であり長女のフェイス、弟のハワード、叔父のマイルズ。

父親は敬虔な神職者で堅物な博物学者。家族より研究が大事かな?

母親は美人だが見栄っ張り。物事通したいときは、常にそばにいる男性の手にすがってオヨヨと泣き崩れる。

フェイスは歳よりも賢く家の手伝いもし、弟の面倒もよく見るいい子だが、疑問があるとすぐ、こそこそかぎまわって(本人談)そんな自分が嫌いな様子。

弟のハワードは手のかかる子で姉のフェイスが始終、面倒見ないといけない(なんで母でなく召使いでなく姉が面倒見てるのかは疑問だが)。

そして一番意味がわからんのが叔父のマイルズ、オマエだ!母親の弟って、つまり家族じゃないじゃないか。何を移住先までついてきてるんだ。

島の人々も、最初こそ有名な学者が島の遺跡発掘に来てくれたと歓迎ムードだが、捏造疑惑を知った瞬間にすごい勢いで離れていく。こういうのって狭いコミュニティの方が露骨で逃げづらいんだよね。街中いた方が自由なことってあると思う。

 そんななか父親が急死したことでフェイスが開眼。父親は自殺するはずがない、事故でもない、じゃあ誰かに殺されたんだ!ってことで探りに探り、調べに調べ、罠を張りめぐらせまくる。それまでの鬱憤を晴らすような素晴らしい行動力だ。ちょっと怖いぞ。

 父親が後生大事に隠していたのはヒトの嘘を食べて成長する嘘の木だった。フェイスはその嘘の木を利用して、父親の死の真相に迫っていく。

 事件の解決に伴う真実の暴露で、一部の登場人物たちの嫌なところがぐるりと回って美点になる。

 私はそちらの正直な性格の方が好きだな。でも正直に生きられてうまくいくことだけだったら世話はない。そうは出来ないから、なんとかして手持ちの武器で戦おうとみんな賢明なんだと思えば、好感が持ててくるから不思議なもんだ。

 細かく読むとアラが見えそうな気がしなくもないが、まあ私、雑なんで大丈夫です。全体を振り返るとイイ男が少なく、イイ女が多い小説だったな。

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