夏への扉

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非常に面白かった!!今となってはかの有名なと言われる類いの本であろうロバート・A・ハインラインによるSF小説。初版は1956年。最近、山﨑賢人主演で映画化されたこともあり改めて話題になっていた様子。有名作であったものの初読であったため、その先進性に新鮮に驚き、大いに楽しんで読んだ。

 

私は実際の季節に影響を受けて、タイトルの印象で読む本を決めるタイプである。湿度満点で曇天続きの梅雨が終わって早くカラリと晴れる夏が来るのを待っている今の気分にピッタリのタイトルである。まあ夏になったらなったで、暑い暑い早う秋来いとか言うんですけどね。

 

SFだと言っているのに、なぜか新緑の季節のような若者の青春小説を想像してしまった。結果全く違う典型的エンジニア気質の主人公が自分のスキルとタイムトラベルや近未来技術でもって事態を打破していく冒険小説だった。

 

著者のロバート・A・ハインラインは「SF界の長老(the dean of science fiction writers)」とも呼ばれ、アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークと並んで世界SFのビッグスリーとも呼ばれている。著作にヒューゴー賞受賞の『宇宙の戦士』、『異星の客』、『月は無慈悲な夜の女王』などがあるが、『夏への扉』は日本以外では前述の作品ほどは人気がないらしい。

 

日本人おそらく夏に開く別世界への扉に弱いのではないかと思うのだ。『時をかける少女』しかり、『サマーウォーズ』しかり、『となりのトトロ』しかり。なんなら地獄の釜も開く季節だからね。

 

その後の作品に多くの影響を与えたのだろうことが一度読んだだけでよくわかる。主人公の優秀なエンジニアだが商売っけがなくて共同経営者にしてやられるって、『ハチミツとクローバー』の森田さんのお父さんみたいな人だな。フィクションの設定の一つとして、その後描かれるようになったエンジニアのイメージなのだろうな。

 

初版1956年。そんな馬鹿な。こんな時期にルンバや電子書籍やインターネットをイメージしたような物が登場するSFが書けるものなのか??いくらなんでもと思ったらやはり多少は単語や表現がアップデートされた新訳版を読んだようだ。しかしそれにしても概念的にはそれを意味した物が描かれているのだろう。SF作家の頭の中はどうなっているのか。むしろ最先端の技術を創る人々の頭の中とSF作家は近いのか。あ、でもアイロボットはアイザック・アシモフだった。

 

SFを読んで大きくなったエンジニアがフィクションを現実にしてしまったのだろうか。だとしたら何てロマンティックなんだろう。専門技術を持った人への憧れが強くエンジニアが主人公の小説に弱いのである。理系の人々のロマンティシズムが大好きだ。

 

科学は必ずしも人を幸せにはしない。便利な道具がいくら増えても人類の労働時間がそれに比例して減っているとは思えない。むしろその分を余分に働きなさいよ!とプレッシャーをかけられているように思ってしまうのは私の住む島国の国民性なのか全世界的なものなのか。

 

しかしそれでもこの本の終盤に語られる一節を強く信じたい。「未来は、いずれにしろ過去にまさる。誰がなんといおうと、世界は日に日によくなりつつあるのだ。」

 

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