大本営が震えた日

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第二次大戦の開始直前、日本の軍事機密を持った人物が乗った飛行機が行方をくらませた。練りに練られた軍事機密が敵国に漏れたらどうなるのか。西野カナとか言ってる場合じゃなくて、大本営はどれほどガタガタのブルッブルに震えたことだろう。吉村昭氏は短く簡潔でありながらそれでなくてはならないタイトルをつける人だと思っていた。本作は他と少し違うがなんともパンチのあるタイトルについ読んでしまったのである。

 

いざ読んでみるとレビューが書けなかった。書いてあることを理解するのは難しくはない。事実を氏が慎重に堅実に取材して積み上げて書いた文章は、中盤までの軍事機密漏洩の危機という緊張感や中盤以降のタイとの交渉の場面など大袈裟にストーリー展開を煽ることなく淡々とつづられる。

 

潔くノンフィクションに徹するその姿勢は余談を許さない。戦争の前夜に何があったのかを安易に決めつけず、緻密な取材で得た情報をもとに最終的にはその判断を読者に任せているように感じる。だがそれは前提としての今の自分が持っている知識より多くのものを必要としていた。

 

ノンフィクションとはかくあるべきであるという作品だと思う。だが優れたノンフィクションを読むには読者の側も一定以上のものを求められているのだなと実感したのであった。

 

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