人が死なないミステリーシリーズで初めて人が死ぬ話。そしてシリーズ初の長編。という話になると、今までの登場人物だとちょっとゆるいというか、もう少しキレがほしかったな。
文学部の女子大生「私」と噺家の円紫さんのコンビが謎を解いていく「円紫さんと私」シリーズ3作目。
以前読んだあらすじを勘違いしていた。主要人物の誰かが死んでしまうと思い込んでいたが、実際は主人公の「私」の近所に住む、後輩の仲良し女子高生二人組のうちの1人が文化祭準備中の学校の屋上から落ちて死んでしまうことから事件は始まる。
このシリーズは一貫して若さの持つ「輝き」と「危うさ」がテーマだと個人的に思っている。今回の事件はまさにそこにスポットを当てたものだろう。
文化的知識は豊富だが、どこか世間知らずで、若者らしい生意気さを持つ主人公の「私」が、円紫さんが解決する事件に触れることで、世間知を増やしていくわけだが、本巻ではかなり後半になるまで円紫さんは出てこない。
同級生の不幸な死の後、親友の女子高生は強いショックを受けて徐々に学校にも行けなくなってしまう。謎の手紙や親友だった女子高生達の不思議な行動など、いくつかの伏線が張られ、円紫さんは今回も鮮やかにその謎を解き、大人としての行動力も発揮するのだが。
なんというか、主要な登場人物達に影がなさすぎるからだろうか。どことなく長編で読むと軽く感じてしまうのだ。この軽さが短編だと「私」の天真爛漫さと円紫さんの知性がキラリと光って、しなやかな印象で好きだったんだけどな。短編向きの登場人物と長編向きの登場人物ってきっといるんだな。
3作以上続くシリーズで、ずっと好みの作品であることってすごいことなのかもしれない。とりあえずこのシリーズはいったん止めて、作者の他の作品読んでみるか。