徳川家康による江戸構築の一大プロジェクト。文学としてというよりも、有能なリーダーのもと行われる壮大なインフラ、社会制度の構築を俯瞰で見るようで興味深かった。正月にTVでドラマ化されていましたね。
徳川家康は小田原征伐のほうびに豊臣秀吉から関東八ヶ国(相模、武蔵、上野、下野、上総、下総、安房、常陸)の土地を与えられる。それまでの自分の領地(駿河、遠江、三河、甲斐、信濃)と引き換えに。
それはぼろぼろの城とわずかの漁民しかいない水びたしの低湿地だった。誰から見ても秀吉が家康の力を削ぐためにした所業であると思われた。しかし家康は手つかずの土地を自ら開拓するという大ばくちに出た。
川の流れを変え人が住める土地を作る。
小判を鋳造し貨幣社会の実権を握る。
生活用水路を整備し人が生活できる場所を作る。
鏡石を積んだ石垣を作ることで、軍事的機能のみならず、城そのものを霊的に守る象徴的な存在を作る。
白い天守閣を構築することで財政的に諸大名の力を削ぎ、権力を名実ともに明らかにするとともに、戦争で犠牲になっていったものを悼むものとする。
本作では徳川家康はそれほど出番があるわけではない。彼に委任された人々が技術者として全力を尽くし、ともすれば自らの代で終わらない事業を子孫や同業の人々に引き継いでいく。
戦時のリーダーと平時のリーダーに求められる資質は、通常異なるものだろう。戦国時代を生きぬいて、その後260年余りに渡って戦争をしなかった徳川幕府の礎を築いた徳川家康は、諸外国のリーダーを見てもあまり例のないことであるらしい。
各章それぞれが深掘りしようと思えば1冊の本になるくらいの話であるのだろうが、江戸時代初期の構築の全体の様子や、現在も残る地名などを確認しながら読むのには面白い。タイトルそのまんまでありわかりやすく、着眼点でアイデア賞!という感じの本だった。