その日、なんの加減か頭が痛かったのだ。こめかみが差し込むような痛みが続く仕事からの帰り道、電車でこの本を読んでいたら頭痛が少し和らぐような気がした。
美しい日本語だ。洗練されていて、優しく、素朴で、暖かい。
その暖かさは太陽のそれでなく、月の光の暖かさだ。照りつけるような温度ではなく、優しく見守るようなもので、緊張感を和らげる文章なのだ。
日本のアンデルセン、日本の児童文学の父と呼ばれた小川未明の童話集。
作中にいくつか月や星たちの語るシーンがある。そのまなざしはいつも生き物たちを優しく見守る。
「野ばら 」で老人と青年の交流に癒され。
「月夜と眼鏡」で老眼鏡を手に入れた心優しい老婆にほっこりし。
「眠い町」で、働き過ぎの人を眠くさせて休ませる砂って、今こそ必要だよなあと思い。
「遠くでなる雷」で、その夏初めてなったきゅうりを大切にする少年の気持ちに、ノスタルジーを感じる。
これは小さいお子さんがいる人なんかは、読み聞かせしてもいいのではないだろうか。疲れた大人の人たちは、短編集だし読みやすいので、束の間の癒しにどうぞ。