破果

破果
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年寄りが活躍する創作物が好きだ。神経痛がねぇとか、古傷が痛むわいとか、目が霞むなどと言いながら、いざとなると誰よりも確実な仕事をする年寄りが登場するタイプのものである。

 

どうも自分自身が、そういったひと味違う年寄りになりたいと憧れているふしがある。厨二病の老人版とでもいうべきか。自分だけは何か他と違う特別なものでありたいようだ。

 

「稼業ひとすじ45年。かつて名を馳せた腕利きの女殺し屋・爪角(チョガク)も老いからは逃れられず、中略、心身の揺らぎを受け入れるとき、人生最後の死闘がはじまる。」(岩波書店 内容説明より抜粋)

 

こんなん読んでまうわ。この本について少し意外だったのが出版社が岩波書店だったことである。厨二病老人版のお手本のようなこのキャッチーなあらすじの本を岩波が出すイメージがなかった。あの出版社は真面目で硬くて流行りを追わないイメージなのである。

 

しかし実際に読んでみると抑制が効きつつも風景が見えるような文章は美しい。いたずらに無双化したババアが活躍するのではなく、主人公は老いからくる体の不調や衰え、心情の変化に戸惑いを持っていることが丁寧に描かれる。飼い犬との関係も1人と一匹が互いに依存するわけではなく共に生きている様子がとても良い。

 

クライマックスに多少の物足りなさを感じるけれども、派手な設定を利用してエンタメにもっていくのではなく老化していく人間の戸惑いとそれでも生きていく強さを描くのが目的であって主人公の職業が殺し屋なだけですけど何か?と言わんばかりである。

 

厨二病老人版に憧れるミーハーな自分に、「実際のところはそういうことじゃないと思うよ。地に足つけて生きていこうね」と肩を叩かれたような気がした高齢女性殺し屋のノアール小説だった。

 

(余談だが厳密にはノアール小説なのか。ノワールかと思っていた。どちらでもいいなど諸説あるようだが。)

 

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