そしてミランダを殺す

面白い!この本がミステリーとしてとても上質でありつつどこか痛快さも兼ね備えているのは、一見か弱い女たちが財力があったり力強いはずの男たちをいいように手のひらで操りに操りまくっているからだ。まあ、この女たちのたくましさに比べ、男たちの情けないことよ。

 

男性陣!キミらはすーぐ恋に落ちるな。最近出会ったばかりの得体の知れない女にすぐ夢中になって、無理な頼まれごとを聞いてみたり、ストーキングしてみたり。

 

そして一度転ぶと弱いな。何かやらかすとオタオタオロオロ、隠し事もたいそう下手くそです。見てごらんなさいよ。あなたの好きなあのオンナはシレッとすごい隠し事してシャーシャーと生きてるよ。

 

もうちょっと周囲を見回すとか、冷静に状況を判断するとか、迷ったら立ち止まるとか考えたらどうだね。彼らは思春期の少女のように純粋で、融通が効かない。

 

女たちはと言えばゴジラ対キングギドラの様相で戦い知略を巡らせており、あんたたち両方とも立派なモンスターだよ。その状況把握能力と臨機応変な対応力は事業かなんかしたらそれなりに成功したんじゃないのとかいらんことを思う。

 

妻ミランダの浮気の現場を目撃し落ち込んでいたテッドは空港で見知らぬ美女リリーと出会う。酔っぱらって妻を殺してやりたいとリリーに愚痴るテッド。するとリリーはそんな妻は死んで当然だとミランダを殺すことに協力することを申し出る。

 

もうね、まずここですよ↑見知らぬ美女がいきなり自分の窮地の相談に乗ってくれて助けてくれることに不信感を覚えろよテッド。そして同時進行で恋に落ちてんじゃないよ。リリーの赤毛が忘れられない…じゃないっつーの。

 

殺害計画を進めるためにリリーとの密会を重ねるうちにますます彼女への想いが深まっていくテッド。もうミランダを殺すとかどうでもいんじゃね?慰謝料払うことになっても離婚して(テッドは大金持ち)リリーと一緒になれればと気づいたまでは良かったが物語は思わぬ方向に展開していく。

 

それぞれの人物のモノローグで語られるストーリーだが混乱することもなく冒頭からスっと物語に入り込める。当初は現在のストーリーと並行して語られる過去の方が興味深く、現在のアイツの話はいいから、あっちの話を早よ早よ!と読み進めた。

 

女たちのうちの一人が第一の殺人を犯した理由。それは環境によるものだったのか、生まれ持った資質だったのか。いずれにしても彼女はそれを無事に成し遂げてしまったからこそ成長してもその素因を持ち続ける。

 

人を信用せず何事も基本的には一人で成し遂げようとする彼女。しかしとても純粋なところもあり人を愛し、その純粋さゆえに愛を裏切る人間を許すことも忘れることも出来ず、世の中から消すことを悪いことだとは思わない。

 

対してもう一人は自分の特性を最大限利用し、利用できる男たちを利用して欲しいものを必ず手に入れる。望んで手に入れたものでも、いらなくなった瞬間にまた人を利用して排除しようとする。

 

欲望にまっすぐであり、強い女性的魅力を持ち誰もが彼女を見ると惹かれてしまうが、彼女は誰のことも愛してはいないようだ。大切なのは自分の欲しいものを手に入れること。そのためには邪魔をする人間を世の中から消すことを悪いことだと思っていない。

 

月と太陽のような、修道女と娼婦のようなまったく違う特性を持ちながら、最終的に選ぶ目的が一緒という女たちが繰り広げる一進一退の攻防に手に汗を握る。

 

ようやく戦いに勝ったと思われた彼女だったが、不意に登場するこれまた情けな系の男性刑事の思いつきと感情に任せた行動にようやく綻びが見えてくる。しかしこれまたギリギリのところで逃げ切り、完勝ですねおめでとう!!

 

いやミステリーとしてそれはアカンやろと思っていたら、最後の最後で象徴的なメッセンジャーからのメッセージで破滅の予感が漂う。お見事!鮮やか!今年のミステリーのベスト3に入るな。

 

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