江戸前 通の歳時記

東京の下町育ちという人たちに、ずっとほのかな憧れを抱いているのだ。長く、そこに住んでいる人々は、きっぷと威勢が良くて粋なイメージ。

でも東京は徳川家康が作った町だもの。実はその歴史は意外と浅いのだ。

三代住んで江戸っ子と呼べるなんて言われたそうだが、戦中、戦後を乗り越え徳川幕府が築いた町に生きてきた人々は、逞しくしなやかに生活を楽しんでいたように思う。

池波正太郎センセーは、大好きな剣客商売や鬼平犯科帳の作者。粋の塊みたいなおじさま。しかも絵も上手いということをこないだ初めて知った。この人の描く犬猫の絵が味があってとても良い。

作中ではよく食べ物の描写が出てきて、いつもその美味しそうなところが大好きだった。センセーが食べ物の描写をよく書くのは、季節感を出すという目的があるらしい。

冷蔵冷凍や物流が未発達だった以前はそりゃ旬のものを食べるものね。いやがおうにも季節感を食事で感じることが出来たというのは羨ましくもある。

本作は池波正太郎の酒肴エッセイ選集。美味しそうなものしか出てこない。

お正月に供えられた鏡餅と橙は、十一日になると餅は割って汁粉になり、橙は汁を茶碗に絞りたっぷり砂糖を加え熱湯をさして頂く。

春先には蛤にウドをあしらった塩味の吸い物。

鯛の刺身をやるときは生醤油へ良い酒を少し落し、濃く入れた熱い煎茶に塩をひとつまみ入れて吸い物がわりにして御飯。

二つ割りの茄子の切口に胡麻油を塗り、焙り焼きにして芥子醤油で。

浅蜊のむき身を煮出してからいったん引きあげ、煮汁を酒、塩、醤油で味付けしこれで飯を炊く。飯がふきあがってきたとき、出しておいた浅蜊のむき身をまぜ込み蒸らす。

メシテロか、、、この人の本に出てくる料理出してくれるところないかなと思ってたけど、どこかのサービスエリアにありましたね。

もしかすると実際に食べると、思っているほど美味しいものではないのかもと思ったりもするのだ。時代が変わって、今は他にも美味しいものがたくさんある。野菜や出汁の味も、昔とは違っているという話もよく聞く。

時は刻々と移い変わっていく。しかし人は生まれた時から死に向かいつつ、生きていくために食べなければならないという矛盾を抱えている以上、せめてうまく(旨く)死にたいということですよね、先生!

余談だが池波正太郎はいっとき浦和に住んでいたらしい。へ〜。

 

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