あとは野となれ大和撫子

  大奥的、中東エンターテイメント活劇!! 大統領の暗殺でゲリラに進軍され国が危機に瀕し、男たちが我先に逃げた後、立ち上がったのは後宮の少女たちだった。

  領内で油田が見つかったのをきっかけに、架空の国アラルスタンはカザフスタン、イラン、ロシアにそそのかされ主権宣言をするが、欧米よりの政策をとり旧ソビエト国家によるCIS(独立国家共同体)を抜けると宣言していたウズベキスタン国軍との間で紛争の地と化す。

  主人公 ナツキは幼い頃、日本の政府開発援助で植物工場の技術者としてアラルスタンに駐在していた父母とこの紛争中の爆撃で被災し一人生き残る。すんでのところを現地の青年に救われ、街をさまよい歩いた後、彼女を受け入れたのは後宮(ハレム)だった。

  後宮にいたのは周辺諸国から、紛争の被害を受けたり難民として流入したりしてきた女性たち。ただしこの後宮は大統領の正室や側室を求めるものではなく、女性たちに教育を施すエリート育成機関だった。

  母国を悲惨な形で追われた少女たちは、この場所で初めて学ぶ歓びを知り、友を作り、居場所を持つことができた。そして大統領の暗殺で国が再び存亡の危機に瀕した時、誰にも頼れなくなった少女たちは、自ら立ち上がり国を守るため戦うことにした。

  と書くと、さぞかし重くて悲壮な決意に満ちた少女たちの聖戦なのかと思いきや、実はとってもカジュアルです。主人公は酷い目にあってるけど、なんだかぼーっとしていて、いつかは父親と同じように科学者になれたらいいなぁとか思いながら、友人のアイシャやジャミラと、ソフトクリームやラグマン(手延べ麺を食べたりカラチャイ(紅茶)を飲んだりする日々。

  後宮とは言っても、出入りは自由だし、頭に布巻かなくてもいいし、あげく友達の一人の趣味はコスプレだからね。まさかあんな危機にナース服が役立つことがあろうとは。少女漫画要素やちょっとしたラブコメ要素もあり、ラノベって読まないけどこんな感じか?

  中盤に至っては、紛争待ったなしの状況で隣接する国々の高官を招いて少女たちがするのは、十九世紀後半、皇帝アレクサンドル二世の治世のもと南進するロシア軍とブカラ汗国を模した歌劇!謎の吟遊詩人で武器商人のイーゴリや反政府組織のナジャフも入り乱れ、これもう学園ラブコメじゃんと思いながら読み進める。

  歴史やしがらみが背負わせた過去や信念は登場人物たちに重くのしかかりながらも、自分の持てる最大限の知力と手段で精一杯戦う少女たちはさわやかな感動を呼ぶ。しかも笑えるぞ!これは明るく読めて、元気の出る小説だ。作者は宮内悠介さん。他にもいくつか気になる本があった。次も楽しみにしよう。

 

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