あやかし草紙

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人に話をすること、人の話を聞くことにはどういった効果があるのだろう。

客人たちの化け物の話、奇妙な話を百物語として聞くことで、客人と自らを、時には化け物を癒してきた主人公おちか。

本作のある章で語る老婆は、生まれもったその声が、もんも(化け物を呼ぶ)声として恐れられ、囁くな、大きな声を出すなと言われて育った人物だった。歳をとり化け物を呼ぶ力も弱まったとして、過去の出来事を語る老婆。

話すことを制限されていた彼女は、そのため話すことの不自由な夫婦のもとで手話のような手の動きで会話することを身につける。その後、その能力を認められ、話すことができない姫に仕えることになる。

姫の話せない理由を知りたいと思いながら仕える内に、彼女はつい、もんも声を出し妖を呼んでしまう。話すことが整理の手段だった物語で、話さなかった登場人物がもたらすものは。

作中で語る人々は語り始める前、しばしば考え込む。どの話をどの順番で話せば伝わるだろう。あの話の前提にこの話がある。これを先に話さないと、次の話が成り立たない。

これは日常生活において、対話する際に人が無意識にしていることである。怠ると相手に話の意図が上手く伝わらない。

話の構成を整理することは、語る人間の心も整理する。過程を明らかにすることで、結論が見えることもある。

作中で人々が長年の鬱憤を解き放ち語り始めるとき、その流れは最初は細い流れの川のようでありながら徐々に太く確かなものになり、勢いをつけながら語り手の手を離れて独立して存在していくような感がある。それほど語ることには大きな力がある。

物語は大きな転換期を迎える。話を聞くことで少しずつ心を癒してきたおちかは、自ら新たな一歩を踏み出す。一方、聞き手には新たな人物が。そして癒しと浄化のためにも新たな方法がとられることになる。

悲劇や不思議の緩急を織り交ぜながらストーリーは続く。この手のミステリーを含むシリーズものはともすれば刺激をエスカレートさせ、現実離れして共感するのが難しくなることがある。

しかし、このシリーズにおいては1番悲惨だった話は実は1作めかもしれない。傷ついた心を持つ人々は最初は語ることもできない。人の話を聞き、少しずつ少しずつ自分の傷と向き合うことが出来るようになる。そして傷を癒し、人に必要とされ人を必要とすることを受け入れられるようになり、やがて前を向いて歩くことを選べるようになるのだ。

身の内に凝っていたものを語り尽くした時、その人の中に残るのは何だろう。癒しか浄化かそれとも言霊による呪いか。

その先に光が待っているか闇が待っているかはわからない。しかし前を向いて歩こうとする意思。それこそは、自らの意思で選べる不幸を遠ざける可能性の高い唯一の方法であるように思うのだ。

 

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