八月の六日間

 

人がすることの中で、理解できない、いくつかのうちの一つが登山だ。なぜわざわざしんどい思いをして、危険を伴って、山に登らねばならないのか。

 

でも意識しているということは、気になっているということだから、いつか登山したくなってしまうのかもしれない。例えば、こんな本を読んでいると。

 

主人公は、出版社編集部で副編集長(途中で編集長に出世)を務める女性。それなりに大人ですので、そりゃいろいろあるのです。で、いろいろあると山に行きたくなるご様子。

 

まず、山に行くための準備がこちゃこちゃしていて面白い。着替え。日用品。登山道具。食糧。

 

おにぎり、メロンパン、フィナンシェ、月餅、じゃがりこ、チョコレート、ドライフルーツ、コンデンスミルク。お菓子持っていきすぎじゃない?笑。そういうものなのか、彼女の特徴なのか。あの海苔が巻いてあるおかきを、品川巻きっていうこと、初めて知りました。

 

そして、そこはそれ出版業界の方ですので、必ず本を携帯。海外ミステリー。内田百閒。向田邦子「映画の手帳」。南方熊楠「十二支考」。吉田健一「私の食物誌」。ヴァージニア・ウルフ「オーランドー」。西村美佐子「風の風船」。読書にもTPOがあって、旅行や山登りの時に持っていくべき本、山で読みたい本があるだろうことは理解できます。

 

なかなか頑なで仕事にプライドを持って自分のペースで物事をしたい人。そんな自分にどこか罪悪感というか問題意識があるようで、彼女にとって山はその辺のチューニングをしてくれるところなのだろう。

 

単独行であっても、行きかう登山者たちはそれぞれに声を掛け合う。平地ではおせっかいと思えるようなことでも、山では気づいた注意やアドバイスをすることが自然なようだ。作中で主人公は、何度かこのアドバイスに救われる。こういったアドバイスが、即、命に影響する可能性があるってのは平地の暮らしと大きく違うところ。

 

忙しすぎて、身体が不調になった時。大切な人をなくした時。愛した人と別れなければいけなかったこと。主人公は、自分と折り合いをつけるために、山に登る。

 

旅行の計画を立てて、荷物の買い物をして、特急電車に乗りる。


電車内で駅弁を食べ、前のりした温泉旅館で食事と温泉を楽しむ。


早起きして山に出発し、自分のコンディションを見ながら歩を進める。


行き交う人と交流したり、山小屋でご飯を食べたりしながら、目的地へ到達。


山の景色を全身で楽しむ。山を降りたら温泉で一服して帰宅。

 

非常に魅力的だ。少し山登りがしたくなってしまった。危険な本を読んでしまった。

 

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