相変わらず人間界のモンスターとばっかり付き合ってるなあという印象の主人公である。大小織り交ぜたモンスターのコレクションでもしてるのかねという印象であるが、今回のテーマは結婚だろうか。
結婚に関係する小さい悪から大きな悪までを再び(何度め?)主人公は無造作に暴きだす。
「あれさえなければいい人なのに」は「それがあるからダメな人」と言うのはもはや結婚界隈では有名な話だと思うが、自分と周囲の違和感を無視して突き進むとそんな遠いところまで行くことになってしまうのかとひとつ目の話で慄く。
いけないことだとわかっているのにそのまま進み罪悪感を持ちながら生きていると自分ばかりか周囲を巻き込んで堕ちていくことがある。しかし、二つ目の話の救いはあの登場人物が前向きに生きようとするところだろうか。
三つ目の話の登場人物は実生活であったら出会い頭にダッシュで逃げたいタイプである。この手の人物とは関わり合わないのが1番であるが、関わりを絶てない場合はどうなってしまうのか。宮部みゆきさんの作品にしばしば出てくる身のうちに巣食う毒についてやりきれない思いになる。
主人公について思うと事件が明らかになっても救われる人は決して多くなく、弱きを助ける正義の味方という感じではない。ニュートラルに対応しているという感じでもなく、いちいち真相が暴かれるたびに彼自身も傷ついている様子である。これはもはや無意識な自傷行為なのではないかと思っている。なぜそうなってしまうのか。
シリーズ当初の頃は妻と娘のいるサラリーマンだった彼が、私生活では離婚を経て会社員をやめ探偵になっている。世の中の闇に本腰を入れて巻き込まれることを覚悟した段階なのかと理解している。
人間は闇に近づきすぎると飲まこまれてしまう。今まではそこから彼を救うのは妻と娘、それに巨大なコンツェルンのトップである義父の役目だった。しかし彼らは主人公の人生から退場したようだ。今回が初登場の刑事の最後のセリフが気になる。新たな登場人物はなぜ主人公がそのような生き方しか出来ないのかを炙り出してくれるだろうか。