沼の王の娘

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これが有能な猟師である父親に憧れる子どもが、父親に猟師としての英才教育を受ける話であればどれだけ良かったか。娘は確かに父親を愛し憧れていたが、父親は彼女の母親を誘拐し監禁して子産ませた人物だった。

個人的に、最近では群を抜く胸糞系小説だ。誘拐が監禁が虐待がというよりも、暴力に支配されながら、強制的にそれを頼って生きるしかない環境におかれる人間の尊厳を損なわれるさまが胸糞なのだ。

読んでいてずっと覚めない悪夢みたいな本だと思っていた。残酷な描写ももちろんなのだが、それ以上に父親が身体だけでなく精神的に娘を支配して、自らのミニチュアかクローンを作ろうとしているさまがだ。

沼のほとりのキャビンに監禁されていた母親とそこで生まれた娘。ネイティブ・アメリカンだという男は狩猟や山でのサバイバル能力に秀でてはいた。

男は山で暮らす術にたけ、ある程度娘が大きくなると徹底的に教育を行う。絶対的で唯一の教育者である父親を敬愛する娘。男は同時に母と娘を精神的に遠ざけるように仕向ける。

成長するにつれ、少しずつ娘は理解し始める。父親は自分を愛してはいない。娘を自分の分身として、執着しているだけだということを。

ある出来事をきっかけに母親と娘は父親の元を脱出する。社会に戻った母と、初めて社会と出会った娘だったが、そこもまた彼女らにとって到底平穏な地ではなかった。

月日がたち、娘は結婚し子どもをもうけて暮らしていたが、幼い頃に特殊な環境で育ったことは彼女を非常に生きづらくしていた。そんなさなか、父親が看守を殺して脱獄したというニュースが入ってくる。

強いて言えば、父親が見間違えようのないクズで悪魔のようだったところが救いだろうか。これで実はお前を愛していたがゆえなんだよ、とか言われたらそれこそ許せない。

全てを知りながら、それでもまだ父親を愛していた娘だったが、自らの家族に犠牲が及びそうになり、ようやく父親との決別を決意する。

実態社会としても児童や女性など弱者が犠牲になる事件が続く中、暴力や虐待を受けた人間がどうなるのか。自分自身が暴力や虐待の結果生まれたと知ったとき、自らを認めることの難しさ。周囲の人間はどのように対応できるのかなど考えさせられる。

主人公の心情に寄り添うのがとても辛い。距離を置きたいと思ってしまう。恐ろしいものを見たとき、出来るだけそれが普通でないことだと自分から遠ざけようとするこの気持ちが、犯罪被害者に対しての気持ちなのであれば、被害者の人々は本当に救われ辛い。

フィクションだからでは済まないこの胸糞悪さは、私が最近の実際の出来事と無意識に置き換えて読んでいたからなのかもしれない。

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