銃・病原菌・鉄 上

生き物ってのは単体としては小さい方が強くて大きい方が弱いんじゃないかと思うようになってきた昨今のコロナ禍による世界情勢。ウイルスは生き物ではないとか何かに書いてあった気もするけど細かいことはまあいい。


今まさにアジア発祥の伝染病が大袈裟でなく全世界を席巻し、むしろ(今のところ)欧州、米国で大変なことになっている。知識階級の人々こぞってこれは人類が皆一度は読んでおいた方がいい本だとおっしゃるので、思考を整理するきっかけになるかとこの機会に読んだのである。

 

どうしてユーラシア大陸のヨーロッパの人間は他の大陸の人間に勝ってそれぞれの大陸で優勢を極めることが出来たのか。生物的に優れてたからだと言われてきたけどそうじゃないよ、それはねという話。

 

いわゆる途上国においては生き残りのサバイバルは先進国のそれよりも厳しい。頭を使って生きないとすぐに殺されたり事故にあったりして死んでしまう。有能なものしか生き残れないのだ。生き残った選ばれし有能なものたちが繁殖して有能になる可能性の高い子孫を残す。対して先進国ではさまざまなセーフティネットがある。多少アホでも身体的に不利でも生き残り家庭を持ち繁殖できる可能性があった。

 

生き物単体としての力や知恵は途上国の人間の方が強いだろうことは想像に難くない。ある日突然、途上国の人間と先進国の人間を山奥に一人ずつ置き去りにしたら生き残る能力が高いのは途上国の人間だろう。それなのになぜヨーロッパ人は世界で覇権を握ることができたのか。

 

それまで狩猟採集をして生きてきた人間の中の一部が農耕を始めた。定期で計画的にたくさん食べ物がとれる可能性が上がって、一ヶ所に定住できるようになったことで出産も頻繁に行えるようになった。頭数も増え分業ができるようになった人々は軍事的にも経済活動的にも急激に力を増した。

 

しかし大人数で群れて同じ場所で家畜やペットと近い環境で生活するようになったことは病原菌がいい仕事をする契機になってしまった。多くの人間が動物から感染した病気で亡くなり、生き残って免疫を持った人間は新たな大陸に渡ってその病気を振りまいた。免疫を持たない新大陸の人々は次々に病気に感染し死んでいった。

 

ここ数百年ヨーロッパ人が優位であったのは生物学的な違いではなく、家畜にすることのできる動物がいて農耕に適した大陸で、狩りの生活から農耕・牧畜の生活に切り替えて、決まった場所で生活することにしたからだということを具体的なデータをふんだんに交えながら分子生物学と進化生物学、生物地理学の専門家であった著者が綴る。

 

農耕で多くの人間を養うことができるようになった人間たちは仕事を分業することができるようになった。分業はそれぞれの技術を発達させ鉄鋼や武器、科学技術はそれまでより段違いの成長をみせた。それらは新大陸を征服するのに大きな力となったが、それにも増してヨーロッパ人たちに有利に働いたのは彼らが免疫を持っていた病原菌の力だった。

 

しかし病原菌恐ろしいな。人間が積み重ねてきた技術などものともせずに(もしくは技術によって乗り越えた地理的不利を利用して)人間を選ばず公平に拡散していく。この災禍を乗り越えた先に人間が手に入れるものは一体何になるだろうと悪趣味ながらも興味深く事態を見ながら、とりあえずは引きこもる日々が続くのである。

 

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