流星ひとつ

流星ひとつ
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「流星ひとつ」とは言い得て妙であった。沢木耕太郎にとっては藤圭子は流星だったのか。鮮やかで、明るく、強く、跡を残して消えていく。

優れたインタビューというものはどういうものだろうか。本人も知らないその人を引き出すようなものだろうか。現役の歌手だったころを知らないので、私にとって藤圭子の知識は、あの宇多田ヒカルの母親でたいそう歌がうまかったらしいことと、晩年難しい状況であったらしいということだけだ。

 

その意味ではこの本のインタビューはご健在で現役だった頃の彼女の姿が垣間見えて興味深かった。形式はBARで酒を飲みながらの二人の会話形式である。二人ともたいそう酒が強い。彼女の生い立ちや結果的に手放した歌の道、刹那的にすら見える生き方、偶然出会っていた著者との話などが会話の形式で綴られる。作家と歌手だからなのか、語られる内容や選ぶ語彙などに特徴があり、村上春樹の小説の登場人物のようだと思いながら読んでいた。

 

ただ私はちょっと腑に落ちなかった。幼い頃から難しい状況にあった親を見て育った人物が、死後に、あなたは知らないかもしれないけれど、自分の知っていた彼女はこんなに輝いて素敵な人だったよ聞かされて何か救いになるだろうか。

 

それはどの立ち位置からの発言なのか。宇多田ヒカルがこの本を読んだかは知らないが、私だったら絶対嫌だなと思ったのである。深夜特急も読まないままにこの本を読んだが、何だか少し著者のことが嫌いになってしまった。しかし、それでも鮮烈な印象を残すインタビュー本ではあった。

 

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