時事ネタをフィクションに使うのは難しい。少しの時間で、世の中はどんどん進んでいく。本書は、2015年頃に新聞で連載していたのを、書籍化したもの。
主人公は、有名私大から大企業を目指し就職活動する。が、すべて落ちてしまい、就職浪人をするために、大学を留年することにする。留年中に、某巨大インターネット通販会社の物流センターで、派遣社員として働くことにする。そこで非正規労働者の仕事を目の当たりにし、将来に大きな不安を抱く。
おりしも世間ではバルスと呼ばれる犯人が、物流網に無差別テロを行う事件が起きる。人々は恐れをなしながらも、過剰・低賃金労働者のための義賊的な犯人に喝采を叫ぶ。
作者の◯mazonへのディスり方がすごい笑。その他にも、某大手電気メーカー、作者の卒業大学など、実在の企業や大学、与野党への言及が多く見受けられる。
気になるのは、登場人物に喋らせすぎなこと。いくらビジネス系フィクションとはいえ、会話の中で、状況説明をさせすぎだろう。登場人物たち、勝手に自分たちで不安を盛り上げて、何かあると、すぐに背筋を凍らせたり、冷や汗たらしたりしてるもの。なに、このマッチポンプみたいな危機意識。
どことなく鼻につく感じがするのは、おしゃべりな登場人物たちは、実は本当の意味で、職業的に酷い目に遭っていないからか。「そ、そんなに酷いことが⁈」とか言いながら、実は、どこかでそれを見下ろしてるんじゃないの?とも思えてくるような。
政府は「働き方改革」で、「同一労働同一賃金」など、非正規労働者の雇用環境を向上させると言ってから、もう何年か経つ。配送量の増加に伴う運送会社の人手不足と過剰労働は、今となっては誰が見ても明らかだ。即日配達の廃止、料金の値上げに、今更文句を言う消費者は、多くはないだろう。非正規労働者の雇用環境が劣悪で、改善の余地があることは言うまでもない。
ここ何年かで言い尽くされてきて、もはや、驚きにすらないないこれらのこと。人間がいるから、仕事があるのか。仕事があるから、人間がいるのか。そもそも、大多数の人間が満足するような仕事がある世界というのは、存在するのか。
流行りの社会問題を、月並みな見方でなぞるようなストーリー。文句言ってるばかりじゃなくて、犯罪じゃない方法で、能動的に戦う登場人物が欲しかったな。