ザ・ボーダー 上

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世の中には関わり合いになりたくない事柄というものがある。暴力に関係する人や事。貧困にまつわる不幸な事柄。巨大な資金が動くイリーガルな世界。

 

それが本人の意思で起きているかどうかに関わらず、出来るだけそういったことから遠ざかりたいという本能的な忌避感がある。安全安心を愛する人々の中で暮らしたい。努力すれば将来には希望があると信じられる世界で生きたい。

 

しかし歴然と世の中に暴力、貧富の差、それに伴う絶望がある。そこから目を背けることは、将来の自分や子孫の世界を損なうものになるだろうか。自分だけが良ければ良いという選民思想を生むものになるだろうか。

 

だからといってケラーのようにずっと戦い続けることなどできない。しかもその戦いはアメリカにおいてベトナムよりアフガニスタンよりずっと長く続く麻薬戦争なのだ。

 

合法化により値下がるマリファナ、飽和状態のコカインに代わる売り物としてアダンが選んだのがヘロインだった。アメリカの巨大製薬会社が作り出す合法鎮痛剤であるオキシコドン、ヴァイコデンなどの阿片から合成された芥子が生み出す薬物は何千もの鎮痛剤依存症を生み出した。依存症患者たちが合法薬剤を手に入れるのが難しくなった時のための街中で売られる安くて純度の高いヘロイン。

 

アダンは言う。「我々は麻薬界のウォルマートになるんだ。」製薬会社の市場価格より安いヘロインを次なる売り物に。アダンの遺産はさらなる混沌を産む。

 

麻薬問題の真の原因はウォール街にあるかもしれない。資本家たちは仕事を国外へ移し、工場や町は廃墟になり、人々は夢や希望をなくし、痛みが生まれる。

 

「ヘッジファンドのマネージャーとカルテルのボスの違いはなんだ」ケラーは問いかける。この麻薬戦争を生み出した世の中で、我々全員が投資家だ。われわれ全員がカルテルなのだ。

 

正直、どういう方向に話を進めるつもりなのかと思っていたのだ。犬の力で始まったこの物語は、ザ・カルテルでいくところまでいって戻る道を想像することも、奇跡的な解決方法を想像することもできないレベルだ。

 

ドン・ウィンズロウ は描き出す。見たくないこの世界の現実を。暴力、貧困、病い。おそらくこの物語に目が覚めるような解決など求めてはならないのだ。この壮絶な戦いの記録は自らの倫理観、人間性に対して問いかけるものであるのだ。

 

下巻に続く

 

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