闇に香る嘘

江戸川乱歩賞受賞作。最近の受賞者で知ってるのは「法医昆虫学捜査官」シリーズ書いてる川瀬七緒かな。ミステリーの賞だけに、設定やトリック、謎解きが重要視される賞という感じなのかしら。その意味で、本作は設定と伏線の回収に優れた作品だ。

全盲の主人公は孫に腎臓移植をしようとするが適合せず、中国残留孤児である兄に移植提供を頼むが、適合検査すら頑なに断られ、失明してから何十年も顔を見ていないこの男は、本当に自分の兄なのかと疑いを持つ。

この設定だけで、興味を惹かれて読み始めた。臓器移植についてや、全盲の人の生活や感情など、なるほどそうなのかと非常に勉強になる。臓器移植ってそんな高齢の人でも出来るのか。視覚障碍者にとって第三の手となる白杖の使い方。音の出ない信号を渡る時の怖さ。ATMに着いてる受話器は画面が見えない人が、取引金額を聞いて知ることが出来るらしい。

冒頭、主人公の娘が、目の見えない親父になかなか酷いことを言う。しかし、いきさつが語られる段になると、それは娘怒るわ、主人公嫌なヤツ過ぎでしょと納得。兄への疑惑を調査する過程でも、どうも常に被害者意識が強く不安定。なのに精神安定剤を焼酎で飲んだらアカンでしょと思いながら読み進め、この人の妄想オチだったらどうしようと、ちょっと不安に思ったのは杞憂だった。

後半の伏線の回収が鮮やか。あれはこういうことで、これはこういうことねと、パタンパタンと落とし込まれていく。その過程で主人公の心持ちも変わっていく。娘さんとのアルバムのエピソードには涙がにじむ。盲目だったのは主人公の身体でなく、心だったのか。

ちょっと要素を入れ込み過ぎの感はあるけれども、それぞれが噛み合ってストーリーをしっかり構成している。何度も江戸川乱歩賞の候補になりながら、初めて本作で受賞したのが納得出来る。意欲的な作品だ。

余談だが、巻末で賞の評価をする有栖川有栖、石田衣良、京極夏彦、桐野夏生、今野敏(任侠シリーズ大好き!!)などが一様に本作をよくできているとほめるのだが、これまた一様に、応募時のタイトルはなんとかならんのかと言っていて笑った。確かに原題はちょっとないタイトルだった。

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