シャトゥーン ヒグマの森

満を辞して(笑)読む羆三部作の3冊目である。偉大なる吉村昭先生の「羆嵐」がある以上、羆を使って小説を書こうと思う作家には最初からかなり高いハードルが設けられることになる。

 

そこでこの作者が選んだ手法は、モロだしのホラーである。だって開始数ページで出てくるもん羆。「羆嵐」や「ファントム・ピークス」は羆登場まで結構勿体ぶったよ。それがまた恐怖を盛り上げる効果があるのは言わずもがなであり。

 

本作はむしろ主人公がなんでそこを訪れたのかストーリーを飲み込む前に現れる羆。えっと、なんでこの人小さい子供連れて、羆がいることがわかってる山に来てるんだっけと思ってちょっと戻って読み直したり。

 

ホラー(羆小説をホラーとするならだが)の後発というのは、出てくるものの正体は既に知れてるわけだから、より強いパンチが求められる。その意味でパンチありまくりの本作。

 

当初から、あー絶対この人喰われるわ、わーあの人も助かりそうでダメなタイプ、とかフラグが立ちまくり。むしろ誰か助かる人間がいるのかと疑う勢いである。そしてフラグに気づくのとほぼ同時にどんどん回収されていく伏線。アワワ、一瞬たりとも止まらない勢いだ。

 

前述の二作との違いという意味では、羆が子羆を連れた母羆であったこと、そして、主役も子供を連れた母親であることか。ヒトの方はともかく、母羆には特に子連れだからどうこうという感傷は感じなかったが、母は強しということか。

 

私の中で、この本は完全にホラー小説に括られたので、なんとなくエイリアン2が思い起こされた。そして命を守りたい母なら、少しは襲う相手に対しても加減してくれるのではないかという甘い期待を、映画同様に打ち砕く母羆の大暴れである。

 

「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を読んだ時にも思ったが、この作家はおそらくパンチのある出来事をさらに強調して書くのが得意な人だ。緩急つけていくよりノリノリのまま突っ走るというか。そしてこの人は絶対羆嵐大好きだ。作者自らの特徴を生かした羆小説であると言えよう。

 

ということは平山夢明とかは絶対羆小説書くなよ、どんなヒドイものになるか考えるだけで恐ろしい。

 

このミスの第5回優秀賞受賞作であるが、それよりもホラー小説大賞の方が相応しくないか?ミステリーの部分はもちろんあるのだが、あまりのパンチに、アレ?なんだったっけという感じ。完全に閲覧注意である。ホラー嫌いな人は読んではいけません。

 

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